121 香り

 赤青湿る紫陽花水無月、曇天重く青時雨。


 コツコツコツとドアの音、開いてみれば郵便脚夫。


 郷里の友より荷が一つ、待ち焦がれたる色はクラフト。


 懐旧立ち籠む箱の中、つらつらつらと目を落とす。


 大葉茗荷に青梅西瓜、モモの香りに初恋の面影。


 思わずモモを甘噛みす。皮も剥かずに甘噛みす。


 胸に湧き上がる蜜の味。舌に広がる蜜の味。蜜の味。


 顔を持ち上げ目を瞑る。想い描くは友の顔。



 嗚呼、友よ。


 金蘭、心腹、莫逆の友よ。


 君には感謝しかない。


 故郷に燻る我が想い、見果てぬ夢に幾千夜。


 託した願いに成就の吉報。我が頬伝う一筋の涙。


 友よ、君には感謝しかない。



 目を開けば篭居す我が部屋、両手に抱くは見果てていたはずの夢。


 モモに赤らむ歪な歯型、落とした視線に映り込む。


 淫らな歯型に歯を当てて、噛みちぎるは初恋のモモ。


 甘美桃色滲む朱殷、滴るは唐紅の雫。


 鼻腔駆ける鉄錆の香り。曇天水無月青時雨。

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