077 猟奇的な友達

「どう? すごいコレクションだろう」


 友達が眼鏡ケースにしまってあるコレクションを見せてくれた。若干黄色みがかった半透明の湾曲した板の山。数にして五十は優にある。大小様々なその板は人間の爪だった。


「ここまで集めるのまじ大変だったわ」眼鏡ケースを机に置き、友達がキラキラした目で俺を見つめる。「それとなあ、実は家の地下室にもっとすげぇもんがあるんだぜ」


 友達の部屋を後にし、二人で地下室に向かう。典型的な金持ちである友達の家は果てしなく大きい。豪勢なリビングから地下へと続く階段を下りる。地下に降りると奥まで通路が伸びており、ドアが二枚、目に入った。何でも地下階を作る際、友達が親に無理を言い、一つ趣味用の部屋を作ってもらったのだそうだ。友達が趣味部屋のドアを開ける。


 その部屋はとても猟奇的な部屋だった。六面打ちっぱなしのコンクリートに囲まれたその部屋は彼の趣味の集大成だと言う。壁際のスチールラックにはおびただしい数の拷問用具やホルマリン漬けにされた様々なが飾られ、中央にあるテーブルにはバラバラにされた死体が鎮座していた。床には腕や足が何本もころがっておりコンクリートに赤い染みを作っている。ただ、血生臭さは全く感じない。ただただコンクリート特有のヒンヤリとした空気が肌に纏わりつくだけだった。


「なあ、すげえだろ? ……つってもまあ、死体は全部偽物なんだけどな」


 良く見れば死体と思われるは全て精巧な作り物である事が分かった。聞くと通販で買ったマネキンに加工してみたり、石膏や粘土で一から作ったそうだ。血と思える染みも全て通販で買った撮影用の本格的な血のりらしい。それにしても出来が良く、切断面はさっきまで血を通わせていたような鮮やかさを再現しており、皮膚の質感も申し分ない。想像以上の出来栄えに俺の心が少し、ざわめいた。


「お前なら、この趣味、分かるよなぁ」棚に飾られた肉たたき用のハンマーを手に取る俺に友達が話しかけてきた。「一応本格派だから、道具は全て本物だぜ」所々ダメージ加工されたハンマーには血のりが付着しており、さも拷問に使ったような雰囲気を醸し出していた。軽く振ってみたが……なるほど、ずしりと重さを感じる。


「俺とお前の秘密の部屋だぜ。良かったらまた来いよ」

 手をあげた友人の指先には白い指サックのようなものがついている。コレクションの爪は友人自らの爪だったのだろう。自らの爪を剥ぎコレクションするようなことは俺には出来ない。猟奇的なものに心惹かれるが自分を傷つけたいとは甚だ思わないからだ。ただ……


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。趣味が合うとは思っていたが、こんなに素晴らしい部屋を持っていたのか――実にもったいない。



 俺は完成された部屋を後にした。

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