068 私≒親友
私と親友のA子はほんとそっくり。
二人共かわいい系の顔立ちだし身長体型もほぼ変わらない。ファッションだって二人はいつもモード系でまとめてる。食べ物の好き嫌いや趣味も同じだから一緒にいると本当に楽しい。何でもそっくりな二人。
そんな二人だからこそ、ある問題が発生した。好みも一緒の二人だから……同じ男を同時に好きになってしまった。相手は同じ大学に通う一個上の先輩で三人とも同じサークル仲間。明るく、いつも輪の中心にいる先輩にいつしか私達は恋に落ちていた。
親友を取るか先輩を取るか、私は本当に悩んだ。多分A子も同じ位悩んでいたと思う。そして私は……親友を取ると決心した。先輩は……殺して行方不明になってもらう事にした。だって、先輩がいる限り私達二人の間に問題がくすぶり続ける事になりそうだし……本当に好きだったんだけど、A子との友情には代えられない。
そして私は今日、問題に決着をつける為先輩のアパートまでやって来た。何度か三人で宅飲みした事があるので部屋はバッチリ知っている。私は覚悟を決めてチャイムを鳴らした。
「おー、久しぶり。どうした?」
「今日はちょっと話したいことがあって……上がらせてもらえますか?」
「あー、今日はちょっとダメ、かな。ここじゃダメ?」
「大事な話なんです。少しだけでいいから……お願いします」
「……んー、そうか。じゃあ分かった分かった」少し困った顔を見せつつも私を中に案内してくれた。「どうぞ」
先輩の部屋は相変わらず綺麗で清潔そのものだった。家具はシックにまとめられ、窓際に置かれたモンステラの葉が日の光を抱き、淡く部屋に届けている。濃いダークブラウンで統一されたテーブルやローソファーは落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「お茶出すからちょっと座って待ってて」私は案内されるままソファーに座った。
テーブルの上には大学の本が数冊とノート、それに筆記用具が置いてあった。試験も近い事だし勉強をしていたんだろうか、と何気なしに見ていたのだが、その中に見慣れたペンが一本混ざっていた。私とA子が大好きなアイドルのグッズだ。以前アイドルのライブを見に行った時に二人で購入したのと同じものだが、知り合いではA子以外持っているのを見たことがない。
「A子……この頃来たんですか?」私は恐る恐る聞いてみた。
「ああ……ついさっきまでA子がいたんだよ」お茶をコップに注ぎながら先輩は言葉を続ける。「A子とお前ってさぁ、すんげぇ似てるよな。見た目もまあ、そうだけど、性格とかもさ。多分考えることなんかも似てるんだろうなぁ」抑揚も少なく、感情を読み取れない先輩の声に少し寒気を感じた。
会話が途切れ、トクトクとお茶を注ぐ音だけが響く。静寂に耐えきれずそのペンを右手で取り、眺める事にした。かなり使い込まれているようで指が当たる部分の印刷はかなり薄くなっている。
ふと、ペンに赤いインクのようなものが付着しているのに気付いた。何だろう、と思いインクに触れようと左手を持ち上げた私は思わず「ひっ」と声を上げてしまった。私の左の掌が赤く染まっていたのだ。恐る恐る左手を置いていたソファーのシートに目を落とす。色合いで気付かなかったが、よく見ると何か薄っすらと染みが広がっているのが分かった。
「ところでさあ、用事で何?」ふいに先輩が話しかけてきた。「もしかして、A子と同じ用事?」
台所から戻ってきた先輩はお茶の代わりに包丁を手にしていた。
「なあ、答えてみろよ。B男」
やっぱ私ら二人は似た者同士。
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