042 部長の依頼

――プシュッ――


 冷蔵庫でキンキンに冷えた缶ビールを開ける。それをぐいと一口飲みテレビをつけた。仕事はデスクワークだが片道一時間の自動車通勤――家での一杯がやめられない。


 十分ほどテレビを見ていると通勤カバンの中から聞きなれぬ着信音が流れ始めた。不思議に思い、カバンの底を漁ってみたら見知らぬスマホが入っていた。画面の表示を見てみると『〇山×男(会社の携帯)』の文字。部長の名前だ。もしかして誰か知り合いのスマホか、と思い電話に出てみた。


「もしもし……もしもし……すいません、そのスマホの持ち主なんですが……」

「えぇっと……どちら様ですか?」

「〇山×男という者です。仕事中にどこか置き忘れたようで……ちなみにお名前お伺いしても宜しいですか?」

「このスマホ、部長のだったんですね。私です。事務員のA子です」

「あーA子くんか……いやぁ良かった知り合いで……実はな、それ私の個人のスマホなんだ。落としちまってな、困ってたところなんだよ」

「これ、部長のスマホなんですか」

「そうなんだよ。何回かけても誰も出ないし、諦めるしかないかなぁと思ってたんだよ。それで急ぎで悪いんだがスマホを届けてくれないかね。今日の夜、実家から電話が入る予定なんだ」

「いいですよ。それで、えっと、どこにですか?」

「アパートの近くにコンビニあるよね?」

「Bマートですかね? ありますよ」

「じゃあそこに十分後持ってきてもらえないか? A子ちゃんのアパートに行くわけにはいかないしね」

 急なちゃんづけには正直引いてしまったが、まあ部長も困ってるようなんでちゃんと持って行ってやろう。ていうか部長に家がアパートだってこと話した事あるっけかな?

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