027 二人の不審者

 それはほんの一瞬目を離した瞬間だった。


 モニターに不審な人間が映っていたのだ。映っているドアを開け閉めするには数秒かかるはずだし、第一ドアの開閉音を拾うはずだ。


 なのにスマホに一瞬目を落とした隙にそいつは音も出さず現れた。


 カメラには首から下しか映っていないがその姿は俺の背筋をゾクリとさせた。飾りっ気のないワンピースは透き通りそうな程に青白く、袖から垂れる両腕は生気を感じさせない。腰程迄あるストレートの黒髪が女であることを理解させてくれるが、とても同じ人間だとは思えなかった。


 そいつは手をぶらんと下げ、何をするわけでもなく、ただ、立っている。


 俺はそいつから目を離すことが出来なかった。


 それからどの位時間が経ったのだろうか。体感的には三十分程にも感じたのだが時計を確認したところ数分しか経っていなかった。そして、その、時間を確認した一瞬の間、あいつはモニターから消えてしまった。静寂の中、唾を飲み込む音が妙に響く。時間は深夜二時。俺は意を決してレンズの向こう側を確認しに行くことにした。


 何度か入るその場所は簡素な作りではあるが深夜の静けさも相まって恐怖を引き立てている。通路の奥、一番端が問題の個室だ。周りの様子を伺いながら俺はドアの前に立った。ドアノブを握りしめ、ゆっくり、ゆっくりドアを開く。……中には誰もいなかった。ほっ、と安堵の息を漏らす。一応何も映っていなかった他の個室も確認してみたが誰もいなかった。


 ――俺が見たものは気のせいだった――そう自分に言い聞かせながら静かにトイレを後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る