そんな事情、もっと早く言ってよね!
『えぇ、誠にその通りで。それより貴方、どうして無料で治療をしているのですか?』
「事情があるのよ。ギルドでタダ働きしないと、村の救助を断られるという事情がね」
そう話すと、何故か彼は納得しないと言いたげな顔をした。何か変な事でも言ってしまったかしら?
『村の救助を断られる、ですか?その話、詳しく聞かせて下さい。』「えっ?貴方、この話を知らないの?」
『はい。何しろ、この辺りに来るのは初めてで。このギルドは妙な規則があるのですね。』
「そう、妙な規則なのよ。知りたいのなら教えてあげるわ。次の怪我人が治療をしにくる間までだけどね。」
『それなら、ぜひお願いします。』そうして私は、村とギルドと私の関係の事を話していった。
『大変ですね。それにギルドがそんな事をするなんて酷い所だ。』”大変ですね”か、そんな言葉を聞けるなんてね。
今までこの冒険者ギルドで感謝された事は無い。皆、回復してくれる事を当たり前だと思っている。
冒険者が村を守るのだから、タダで回復するのは当然の事だと。だからこそ、”大変ですね”の言葉が新鮮で嬉しかった。
「えぇ、大変ですの。貴方みたいに感謝してくれる人もいませんでしたし。さぁ、これを。
本来ならポーションは有料ですがサービスです。」こんな事したら、普通はギルドに怒られるかも知れない。
まぁでも、少しぐらい仕返ししても許されるよね。『いいのですか?』「勿論よ。ただしギルドには内緒にしててね。」
『分かりました。それではありがたく頂きますね。』そう彼は話し終わり、治療部屋から帰っていった。
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ギルドで聞いた彼女の事情は、聞くのも辛い話だった。村の為に一人、知らない場所で頑張る彼女の話は。
本来、冒険者ギルドが依頼を断る事は出来ない。依頼を受ける側は、報酬が少ないなどの理由で断る事は出来るが。
それに、村の近くに現れた魔物は優先的に討伐する規則がある。その為の補助金もギルドは貰っている筈だ。
なのに彼女はその事を知らされず、村の為にギルドでタダ働きを強いられてる。可哀想に、すぐに助けてやるからな。
それにしても、彼女の聖女としての力は素晴らしい。折れて砕けた骨も、全身に回った毒も全て治してくれた。
ギルドが彼女を騙し利用するのも理解はできる。何せ、最高の回復師がタダで治療してくれるのだからな。
だからこそ、このギルドは許せない。何故なら彼女がここまでの能力を得る為にしてきた努力を蔑ろにしてるからだ。
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次の日、彼は真剣な顔をして私の所にやって来た。何でも、『君が仕事をしている理由の事で話がある』との事。
『本来、ギルドが村の救助依頼を断る事は出来ないのです。ましてや、救助の対価に貴女の様な人をタダ働きさせるなんて』
彼の言っている事は分かる。でも、その内容には納得なんて出来ない。私が今まで騙されていたなんて。
「えぇと、心配してくれるのはありがたいです。でも仕方ないの。村は貧乏だし、それに最近は強い魔物が増えてきてますから。」
『だからこそ、村からの依頼には補助金が付くのです。強い魔物がいるなら、ギルド本部に報告すれば冒険者の派遣も頼めますし。』
「、、、そんな話、初めて聞きました。」一瞬、目の前が真っ暗になった。比喩ではなく、実際に。
聞いた話が衝撃的過ぎて、脳が理解を拒んで立ちくらみしたから。『大丈夫ですか!』
「えぇ、なんとか。お優しいのですね。」すかさず抱えてくれなければ、私は倒れてた筈。気が利く人ね。
『それほどでも。それで、貴方に提案したい事があります。一緒にギルドの不正を暴きませんか?』
「不正を暴く、ですか?事情は分かりましたが、そういう事ならギルド本部に報告すれば済むと思いますが。」
『確かにそうですが、それでは貴女が救われません。報告を受けてギルド本部が動いても、精々ここのギルド長が処分されるだけですから。』
あんまりな話、再び私は倒れそうになった。流石に二回目は何とか耐えられたが、それでも私の気分は暗く沈んでいる。
今まで嫌いだったけど、頼りにはなると思ってたギルド。それがこんなにも最悪な組織だなんて。
「それならどうすればいいの?証拠を集めて不正を暴いても、ギルド長が処分されるだけなら意味は無いと思うし。」
『ただの証拠ならそうでしょう。ですが、このギルドは補助金や強い魔物の事を組織的に隠していると思われます。
その事が本部にバレれば、ギルド長を処分して終わりには出来ない筈です。』
補助金や強い魔物、か。補助金の事は全く知らされなかったけど、強い魔物の事なら治療中の冒険者から聞いた事がある。
それなら私でも調査できる筈ね。「補助金や強い魔物ね。強い魔物の事なら私でも調べられるわ。」
『それなら私も、強い魔物の事から調査しますね。安心してください、貴女は一人ではありませんから。』
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