イトリ川短編小説賞 講評の感想

木船田ヒロマル

イトリ川短編小説賞 講評の感想



 まずは評議員の皆さん、読んで頂き、またそれぞれに丁寧で具体的な講評を頂き、ありがとうございました。


 講評の感想も欲しいという要望を観測しましたので、そういう試みは初めてですがやってみたいと思います。


 まず感じましたのは、お三方とも作品に対してとても好意的で、今回の小説賞の参加作のみならず、小説を、文章を愛してらっしゃるのだな、という印象を受けました。

 のみならず、皆さんも作者として作品を書く経験をきっちり積まれているので、読者として楽しむと同時に、作者視点での技巧や表現方法も並列して意識できていて、さすがだな、と思いました。


 さて僕の著作「勇者の剣」に付いての講評ですが、皆さんのご指摘部分、露ほどの不満も反論もありません。きちんと読んで頂き、三者三様のご講評を頂き嬉しく感じると共に非常に参考になりました。

 自作について語ることは得意ではないですが、今回の「たった一つの望み」というテーマは僕にとっては難しく、しかしだからこそプロットとして「たった一つの望み」という主題がきちんと浮き立つ構成にする、ということを意識しました。


 前後にもっと冒険を、というご提案。まさにその通りで、お話としてはその方が充実した読後感を提供することができそうです。

 ただ今回は、僕の筆力ではそれをすると「たった一つの望み」のパンチが弱まると予想しました。また上限1万字は、僕の実力では冒険を書くには窮屈で(もちろんお察しの通り僕が時間を作るのが下手なのも要因の一つではありますが……)色々中途半端になるくらいなら、潔く二人の登場人物の望みが重なって一つの望みになり、気持ち良く悪を倒すお話にして、その一番美味しい所を皆さんに読んで頂こう、というのが今回の僕の決断です。

 構成は基本通り起承転結の四部構成にして、たった一つの望みをようやく果たした勇者の剣が、さらっと砂にほどけて終わる。

 今回のレギュレーションで僕の芸風だと、そういうアニメにしたら30分くらいの掌編が最大にパフォーマンスを発揮できると考えました。(ニチアサ*戦隊や仮面ライダーと言った特撮番組*とのご指摘を受けたのには唸りました)

 また僕は剣と魔法のファンタジーの中で、起きる事象に科学的な物理現象が伴うのが好きなのですが、主人公の高速飛行時に発生する気圧雲「ベイパーコーン」を取り上げて褒めて頂いたのは素直に嬉しかったです。

 主人公が翼を広げて飛び立つシーンは、僕らにとっては「どこかで見た」シーンだとは思うのですが、その「どこかで見た」のストックが豊かであればあるほど美しく脳内に再生されるシーンで。僕の作中描写は控え目なので、そこを褒めてくださったのは、あなたの中に沢山の美しいシーンの蓄積があるからですよ、と思いました。

 王道、は意識しているというか、僕がお話を書くにあたって大切にしている読む方にとっての読みやすさ、分かりやすさ、伝わりやすさの体現なので、そこを汲み取って貰えたのも伝わった感があってホッとしました。

 かつて某お笑い芸人さんがネタを作る時の話として仰っていた「新し過ぎてもいけない。古すぎてもいけない。お客さんにとって見たことはあり、知っているけれどもどこかが新しいもの、が大勢の人にウケる」という言葉、ジャンルは違えど真理だと僕は感じています。

 僕自身古い人間なので、新進気鋭の方々と肩を並べるに当たりトレンドで勝負するには感覚も反射神経も鈍く、自分の武器である経験と基本に忠実な創作姿勢を前面に出すと王道っぽくなって行きがち、というのが正直な所ではあります。もちろんそれでも見所があるように、読んで良かったと思って貰えるように、構成の工夫や新規性の取り込みにウンウンと唸っているのではありますが。


 最後に、主催のイトリさん。

 今回の小説賞を開催して頂き、ありがとうございました。

 僕も評議員経験者なので、主催中の苦労やプレッシャーはそれなりに分かるつもりです。

 しかしそれらを乗り越えてきちんと結果発表まで漕ぎ着け、イベントとして綺麗に纏める手腕は作家としての能力と併せ持つ、イトリさんのお人柄と才能の発露だと思います。


 8月25日現在神ひな川小説大賞が開催中で、またその先には草食信仰川が予定されており、益々盛り上がる川系小説大賞ですが、押しも押されもせぬその一角として燦然と輝きを放つ今回のイトリ川短編小説賞に参加出来て、得難い経験をさせて頂くとともに、とても誇り高い気持ちになれました。


 イトリさん、評議員の皆さんありがとうございました。

 そしてお疲れ様でした。

 またどこかの川のほとりか、その荒れ狂う真っ只中でお会いしましょう。

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