3.2

 『なぁ、大人になったらさ俺と結婚してくれよ』


その言葉を彼が私に向けて放ったのは、私達以外の子供は皆んな帰り二人だけで親を待っている時だ。

 子供の頃から彼はずっと素直な気持ちを伝えるのが苦手な不器用な男の子だった。遠回しな言葉でしか想いを伝えられないそんな子だったから、保育園の頃は多くの女の子から嫌われていた。

 だけど、私はその当時から彼のことが好きだった。

 きっかけは一目惚れ。

 幼い子は惚れ症だと言われているけれど私が誰かを好きになったのは後にも先にもその一度きりだけ。


 (この子が私の運命の人…。)


 彼の姿を見た瞬間、恋に落ちた。

 黒髪のウルフカットの目つきの悪い男の子とくれば、普通子供なら怖がってしまうだろう。私も彼と同じ特徴を持つ男の子と転校する前に出会っていたが、その時は怖がって全く近寄らなかった。

 それなのに、何故か彼だけは不思議とカッコいいと思ってしまったのだ。

 それは、多分彼が他の男の子と違って誰かを想いやられる優しい子だと本能的な何かで悟っていたからだと思う。


 最初は、彼が私に気を遣って本を読んで上げようかとか、一人でいるのはつまらないから一緒に遊ぼと遠回しながらに彼が誘ってきてくれただけど、どう彼と接していいのか分からず私は別にいいと突っぱねていた。

 こんなことをされれば普通離れていってしまうのに、何故か彼は私に何度も声を掛けてくれた。 

 毎日毎日飽きもせず、冷たい態度を取る私を遊びに誘ってくれるそんな彼に私はもっともっと惹かれていくと同時に、素直になれない自分が嫌だった。

 そんな自分を変えたくてある日、なけなしの勇気を振り絞り『…あの、その、私と一緒に本を読んでください。』と、顔を真っ赤にしながらか細い声で彼を誘った。

 その時、彼がどんな顔をしていたかは分からないけれど『…しゃあーねぇーな』という彼の声は上擦っていたから、きっと照れていたんだと思う。

 それから、私達は距離を縮めよく一緒に遊ぶようになった。

 おママごとやお絵かきなんて普通の男の子ならしない様な遊びを彼はなんだかんだ言いながら付き合ってくれたり、時には教室に引き篭もり気味な私を無理矢理連れ出して、外で出来る色んな遊びを教えてくれた。

 時にははしゃぎ過ぎて先生に怒られたりもしたけれど、そのおかげか少しだけ内気だった私の性格は明るくなった気がする。

 外で遊ぶようになった私は、彼以外の男の子と前よりも話す様になった、そんなある日彼が夕暮れ時の誰もいない教室で告白してくれた。

 何故あの時に私を誘ってくれたのと大きくなった高校生の時彼に尋ねて見ると、他の男の子と話していて取られそうだと思ったかららしいだと頬を掻きながら、そっぽを向いて私に聞こえるか聞こえないくらいの小さい声で答えてくれた。

 それを聞いた私は外であるにも関わらず、彼のことがとても愛おしくなって抱きつき頬にキスをした。私はずっと彼の側にいるという気持ちを込めて。

 

 













 

 

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