第33話 主人公の独白
僕は最低な奴だ。
そう思うようになったのは、幼馴染みの小鳥を振ってからだった。
自分が好意に鈍感じゃなければ。
自分が小鳥と出会わなければ。
自分があの時もっと早く答えを出せていれば。
小鳥はあんなに傷付かずにいられたのに。
今だってそうだ。僕は周りの空気に流されて夏美の試合を応援しに来ている。
その対戦相手が小鳥だと知っていてら僕は周りに流されてここに来た。小鳥をまた傷つけると分かっていながら。
「堺自慢の彼女さんがスパイクを決めたぞ」
「ほら、恥ずかしがらずに応援の言葉を言ってやれよ」
「う、うん」
友人達に唆され僕は夏美を応援する。
すると、夏美は笑顔でこちらに手を振ってくれたけどその目の奥は笑っておらず止めてよと訴えかけてきた。
その瞳を真っ直ぐに見つめ返し、僕は奥歯をぎりりと強く噛み締める。
僕だって分かっているさ。あぁ、分かっているとも。これが小鳥を苦しめていることも、君と小鳥との距離を遠ざけていることも。
だけど、ごめん。僕は怖いんだ。夏美。
小鳥と君が前のような関係に戻ることが、とてつもなく怖い。
僕は小鳥と夏美の好意に触れて、何度も何度も悩み悩んだ末に夏美を選んだんだ。
二人とも僕には勿体ないくらいの可愛くて運動、勉強、家事も完璧な女の子。
その二人のうちのどちらかを選ぶというのは、僕の精神をとつてもなく擦り減らした。
もし、仮に小鳥と夏美が復縁したらまた同じような選択を迫られるのではないか?
あり得ないと分かっているでも、頭の中にこべり付いて離れないこの恐怖が囁くんだ。
『もう一度同じことが起こるぞ』
って。
僕はもうあんなことを繰り返したくない。
また、あの日のように誰かの心を抉りたくない。
だから、ごめん。小鳥。僕は君を傷つける。
身勝手だって分かってる。
許してくれなんて思わない。
だけど、どうかお願いだ僕を嫌ってくれ。
夏美と距離を取ってくれ。
そうしてくれないと、僕は壊れてしまう。
お願いだ。僕から離れてくれ。
『それじゃあ、困るんだよね』
そう思っていたのに、脳内に知らない少女の声が聞こえると今まで感じたことのない程の暗い感情が溢れ出してきた。
それは、小鳥とある一人の男子生徒が話しているを見ると、さらに溢れ出し僕の思考を狂わせていく。
『君は僕だけを見ていろ。君は僕のことが好きなんだろう?なら、他の男なんかにそんな目を向けちゃダメだ。君のその瞳に映るのは僕だけしか許さない』
僕の中で暗い嫉妬の炎が灯った。
それはとても小さなものだったけれど、徐々に全身のヒビに蝕んでいき、可笑しくなっている僕にそれは致命的な一撃だった。
(僕はまだ小鳥のことも好きなんだ。小鳥もまだ僕のことが好き。夏美も小鳥のことが好き。小鳥も夏美のことが好き。そっかー、そっかー、なら答えは簡単じゃないか)
急に、付き物が取れたかのような心地よい開放感に包まれ僕は笑みを浮かべる。
「小鳥もナイススパイクだったよ」
そして、僕は小鳥に称賛を送った。
戻ろう。昔の関係に。
みんながみんなお互いが大好きだったあの関係に。今度はちゃんと選ばないから。
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