第15話 負けヒロインがあの日のことを口に出すまで

 カランカラン、と店のドアについているベルが鳴った。俺は皿洗いをしながら、視線をドアの方に向けると制服姿の水瀬がこちらを見ていた。


「いらっしゃいませ。空いてるお好きな席にどうぞ」


 お客様が来た時の常套句を口に出し、皿洗いをやめ手を拭く。そして、メニューを持ちキッチンから出た。

 水瀬は、今店内に誰お客さんがいない状態なので、キョロキョロと辺りを見てどの席に座ろうか迷っているようだ。

 人が来てもこちらの顔が見えない位置の方が安心できるだろうと思い、半個室のテーブル席に水瀬を案内することにした。


「そこの、テーブル席にどうぞ」


「は、はい」


 俺が接客モードだからだろうか水瀬は少しどう対応していいのか分からず、ぎこちない返事を返す。

 それが少し面白かったので、俺はもう少し揶揄うことにした、ら


「こちらがメニューになります。ご注文がお決まりになったらお呼びください」


 俺はいつも通りお客様の対応し、メニューをテーブルの上に置いて一旦席を離れた。


「あ、あの。湊川君」


「はい。ご注文がお決まりになりましたか?」


 キッチンでお冷の準備をしていると、水瀬から名前を呼ばれたのでお冷をお盆の上に乗せて持ち彼女の元に戻った。


「お先にお冷の方を置いときますね。……はい、ご注文の方をどうぞ」


「この間のダルゴナコーヒーを一つと、お悩み相談をお願いします」


「ぷっ……失礼しました」


 まさかこのタイミングで、ふざけた様子もなくお悩み相談なんて言うものだから、接客モードにも関わらず俺は不覚にも吹き出してしまった。


「今絶対笑ったー!もう、だって仕方ないじゃん。湊川君が周りのお客さんもいないのにそんな態度だから、このタイミングぐらいでしか言えそうになかったんだもん」


「悪い悪い。少し悪戯が過ぎた。とりあえずダルゴナコーヒー作ってからお悩み相談な」


 水瀬がプクッーと、頬を膨らませいじけているのを見て俺は頭を軽く下げ謝った。

 そして、俺はキッチンに戻りダルゴナコーヒーを作って水瀬のところに戻る。

 その際に、水瀬の相談に乗ることになったため長い時間離れても良いか確認してみると、


「お客さんの話を聞くのも大事な仕事だから問題ないよ。ただしきちんと注文はとってね?」


 お許しが貰えた。が、本当に大丈夫なのか不安になった俺は店長の方を再度向くと、ウィンクが返ってきた。この様子を見るに、話し込んでも大丈夫だろう。

 俺は軽く頭を下げ、店長に心の底から感謝する。そして、頭を上げると水瀬の元に向かった。


「お待たせしました。ダルゴナコーヒーと相談役一名です。以上でお揃いで間違いありませんか?」


「……間違いありません」


 水瀬はまだ拗ねているのか、それとも俺がまた接客モードになったからか分からないが、頬を今だに膨らませたまま不機嫌そうに窓の外を見ていた。

 俺はやり過ぎたなと反省しつつ、ダルゴナコーヒーを水瀬の前に置き、反対側の椅子に腰掛ける。

 水瀬は意地を張って、そっぽを向いたままだったが、やがて水瀬は手元にあるコーヒーカップを両手で持ち、ふーふーと息を吹きかけた後ゆっくりと飲んだ。そして、何回かちびちびと飲んだ後、コーヒーカップを握ったままゆっくりと話し始めた。


「私さ。あのクリスマスの日堺 悠人君。ゆーくんに告白したんだ」






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