6

 正しい行いが何なのかを、あれからずっと考え続けていた。

 誰も傷つけず、傷つかずに済むこと。あやうくやわらかい心の内にむやみに素手で触れるべきではないからこそ、そのために出来ること。

 ここですべてを絶ってしまえば、もしかすればそれは叶うのかもしれない。でもそれはきっと、幾度となく彼に残されたものを見つけても、それを自らの意志で遠ざけてきた人間とまるで変わらない。

 彼がそれをほんとうに喜んでくれるとは、到底思えない――思い上がりだと言われても、確かに重く心にのしかかる感情だった。

 答えの出ない問いかけの海を泳ぐようにしながら、足はいつの間にか、いつも通りの通い慣れた道を歩んでいた。

 煉瓦作りの建物を横目に、いつものように奥に続く墓地へと歩みを進め、縁もゆかりもない誰かの魂の眠る石碑をぼんやりと眺める。

 雨風に晒され、ところどころが色褪せ――それでもそこには、彼らがそこに生き、その最期の旅を見送ろうとした人たちの想いが確かに刻まれている。

 死してなお、居場所を守る人がいることで、魂は永遠の安らぎを手に入れる――それならば、それらすべてがあらかじめ手に入らなかった人はどうすればいい?

 その答えを一心に背負うかのように悠然とその姿を現す、ひときわ立派な石碑へと僕はぼんやりと視線をそよがせる。

「やあ、こんにちは」

 黒いウールの帽子に、深いチャコールグレーのニットガウンの下には黒のカソック。そこにいるのは、いつも出会える『彼』とは違う――この場所を守る神父の姿だ。

「……こんにちは」

 遠慮がちに答えれば、包み込むようにおだやかな笑顔がそうっと返される。

「ディディは出かけています。あなたが来てくれれば、そう伝えてほしいと言っていました」

 待ちますか? やわらかに投げかけられる問いかけを前に、曖昧な笑顔で僕は答える。いまはただ、そのくらいのことしか思い浮かべられないから。

「もしあなたが来てくれたなら――、」

 言葉を選ぶようにゆっくりとおだやかに――それでも、確かな想いを込めるように静かにこちらを見つめたまま、彼は尋ねる。

「話をしてほしいと言っていました。すこし聞いてほしいことがあるから、それについて。自分からはうまく伝えられる気がしないから、と」

「ええ、」

 にこやかに笑いかけるようにしながら、静かな決意を閉じこめたかのような問いかけは続く。

「ですのですこしだけ、お時間をいただいても構いませんか?」

「……はい」

 かすかに息を呑むようにしながら答えれば、鉛をのんだように鈍い感触がたちまちに胸の奥で静かに広がる。



「あまり固くなりすぎないでくださいね、とは言っても無理があるかもしれませんが――」

 にこやかに告げられるいつかのその日とおなじ言葉に、裏腹に心はぎこちなく震える。

 あの日と同じ応接室の、やわらかく身体ごと沈み込むような天鵞絨のソファに遠慮がちに腰を下ろし、気づかれないように深いため息をこぼす。

 あれからすこしだけ変わったことがあるとすれば、窓の外に顔を覗かせた木々がすっかり色を変え、葉を落としはじめていることくらいだろうか。

「ディディは、」

 自分でもびっくりするほどの頼りなく掠れた声に思わず肩を竦ませるようにしたまま、振り絞るような心地で言葉を吐き出す。

「なにか特別なことを話していましたか、神父様に」

「そうですね、」

 瞳を伏せるようにしながら、やわらかなささやき声が満ちていく。

「特別かどうかはわかりかねますが……あなたの話は、いつもしてくれていました。家族の話をしばしば聞かせてもらうようになった、と」

「ええ、」

 ほんとうなら口にするべきではなかったかもしれないのに。うっとりとまぶしげに瞼を細めるようにして耳を傾けてくれる姿を前に、あまえていたのは確かだった。

 瞳を曇らせるこちらを察するかのように、おだやかに笑いかけるようにしながら神父は答える。

「すごく楽しみにしている、うれしいといつもディディはそう言っていました。いまのあなたを育んでいるものに触れさせてもらえるのは、とても幸せな時間だと」

「彼なら言いそうなことだ」

「本当に、ね?」

 ぱちり、とささやかなまばたきを送りながら告げられる言葉には、ひたひたと染み出すような慈愛の想いが溢れている。

「でも――、」

 ためらうこちらを後目に、さざ波のようにやわらかに言葉は波紋を落とす。

「言葉をかわすその度、自分の中の通り過ぎてきた時間を思い返さずにはいられないと――それを受け止めてほしいと願う気持ちと、ためらう気持ち、その両方のあいだを始終行き来していたそうです。あたりまえのことですよね、心から信頼を注いでいる相手の前では隠し事は出来ない。あなたがそうしてくれたように、心の内側にしまったものに触れてほしい―それでも、それがほんとうに赦されることなのかがわからないと、彼はそう言っていました。だから言ったんです、それなら、私が代わりに話しをしましょうかと。自分の口からはうまく伝えられなくても、あいだに誰かが立ってくれればずいぶんと気持ちは軽くなるはずです。違う誰かの視点から語られた方が、当事者よりもずっと冷静に物事を伝えられるだなんて利点もあります」

 言葉を探し、ためらうこちらを気遣うように、ぱちりと目配せを送るようにしながら彼は答える。

「過保護だと思うでしょう?」

「そんなこと……」

 遠慮がちに答えれば、ゆっくりとかぶりを振っての、やわらかなささやき声が返される。

「自分でも自覚はしています、それでも、こればかりは――もう大人なのだから却って失礼にあたるだなんてことは百も承知です。それでもいつも、頼ってほしいと思ってしまう気持ちが捨てきれないんです。私にはそのくらいしか彼に返せるものがないからかもしれません」

 じっとこちらを見つめたまま、ぽつりと言葉は落とされる。

「本題に入らせていただきます。ウェイラード製薬という会社のことをあなたはご存じですか?」

「名前と主要製品のことならすこしは」

 老舗企業が名を馳せる中、当時二十代だった女性企業家が立ち上げた新進気鋭のその会社はたちまちに階段を駆け上るように業界シェアトップへと登り詰め、その華々しい活躍の裏で、代表取締役を勤めた彼女には数多の疑惑が立ち上り、度々にメディアを騒がせていたことは記憶にまだ新しい。

「三年前、取締役を勤めていた婦人は自宅で命を落としています。死因は、違法なものとして規制されている禁止薬物を含む数多の薬物とアルコールの過剰摂取による急性心不全でした。外傷や何者かと争った形跡、盗み出されたものなどが確認されなかったことにより、突発的な自死だと見られています。もとより几帳面な性格のはずだった彼女が立て続けに約束の場に現れず、仕事の関係者とも、出入りの家政婦からさえも一切連絡を絶った状態となったことを不審に思い、調査員が彼女の自宅を訪問した際、変わり果てた姿となった彼女を発見したそうです。生前の彼女には様々な嫌疑がかけられており、捜査に入る格好のチャンスだと見られていたのでしょう」

 いぶかしげなまなざしを向けるこちらを前に、にこりと静かにほほえみかけるようにしながら彼は答える。

「晩年の彼女が周囲にうれしそうに話していたことのひとつに、犬をひきとって飼い始めたのだというエピソードがありました。とても優しいおだやかな性格の成犬だったそうです。艶やかな黒い毛並みにしなやかな体つき、琥珀色に輝く瞳がとても綺麗だそうで――それでも、親しい人たちのほとんどは写真ですらその姿を目にしたことがなかったのだそうです。なんでも子どものころにつらい思いをして過ごしていたせいか、ひどく臆病に育ってしまったのでむやみに人前に出すことは出来ないし、写真とは言え、見せびらかすようなこともしたくないと。それだけ彼のことを、なによりも大事に思っていた証なのだろうと思います。彼女以外に面会を赦されていたのは出入りの医師とごく一部の限られた人間だけで、四半世紀以上をともに過ごした家政婦ですら、彼に会うことは禁じられていたそうです。二階の奥、使われていなかった客間が彼にあてがわれた部屋で、彼女に特別に赦されたもの以外はその部屋に近づくことすら固く禁じられていました。がっしりとした特注の大きな鍵が二つに、窓には頑丈な鉄格子がはめられていました。多少変わり者で知られていた彼女のことですから、あの部屋で獰猛な猛獣を飼い慣らしているのでは? という噂までが流れたほどです」

 胸の奥が、ナイフを突き立てられたかのようにぞくりと冷たく震える。もし本当なら、それが――息をのむこちらを前に、気遣うようなまなざしをそうっと手向けながら、ひどく落ち着いたやわらかな口ぶりで言葉は続く。

「鍵を発見した捜査員が開かずの間だった部屋へと押し入りました。簡易のバスルームにクローゼットと大きなベッド、まるでホテルの客室のような清潔な部屋には、一見したところで生き物の気配はまるでなかったといいます。おそるおそる歩みを進めるうち、彼は鉄格子のはめられた飾り窓からがっしりとした鎖が下がっていることに気づく。その先にいたのは、ベッドと壁のあいだの僅かな隙間の間に倒れ込む、革製の立派な首輪で鎖に繋がれたまま意識を失った青年の姿でした―それが、ディディです」

 艶やかに波打つ黒い毛並み、透き通るようになめらかな白い肌、伏せられた瞳を縁取る長い睫毛――ひとめ捜査員の姿を目にしたときにあげたという、懇願するかのような、掠れたたよりない鳴き声。

 そこにいたのは確かに、彼女の人生の最期の時間に寄り添い、一心に寵愛を受けた『犬』だったのだ。

「すぐさま彼の身柄は保護され、そのまま病院へと運ばれました。ひどい衰弱状態で、あと一歩発見が遅れれば命の危険に晒されていたと言います。どうにか心身の回復が見受けられたあと、彼の身柄は拘置所へと移送されました。彼女の最期に立ち会った人間として、殺害の容疑をかけられたためです。それにしたって随分おかしな話です、鎖に繋がれ、鍵をかけて閉じこめられた青年がどんな風に婦人殺しを実行出来たというのでしょう。調査は彼と彼女の暮らしぶり、そこに至るまで、彼がどんな半生を過ごしてきたかまでに及んだそうです。やがて疑惑は晴れ、不要の存在とみなされた彼は拘置所を出所することとなりました。とは言っても、すでに彼には身よりとなる人間はいません。ひとまずのあいだは更正施設が彼を預かることとなりました。そちらの所長は、私の古い馴染みでした――そうして彼は、この町にやってくることになりました。それが、いまから二年前の出来事です」

 やわらかに告げられる言葉に、『いま』の彼の残像がかすかに滲んで広がる。

「あらかたのことはあらかじめに聞かされていました、それは彼自身も知っています。それでも、起こった出来事の輪郭をなぞらえることと、彼自身から聞かせてもらうこととでは、見えてくる景色はまったく異なります。話したいとそう思ってもらえたことが、ほんとうにうれしかった――あなたも同じですよね、それは」

「……ええ、」

 たおやかな笑顔にくるまれるようにして届けられる言葉に、息苦しいほどのぬくもりとともに、僅かな痛みがゆっくりと押し寄せてくるのにそうっと身を任せる。

 点と点を結んで線を繋ぐことであらたな図形が描かれていくかのように、おぼろげに見えていた残像が次第に色鮮やかにその姿を現していくのを僕は感じていた。

 いつもスカーフを巻いて首もとを隠すようにしていたわけは? 「元の生活には戻れなくなってしまった」という言葉の指し示していたほんとうの意味は? 仕事らしい仕事に就いたことがなかったと、居心地が悪そうに語ってくれたことの裏にあった答えは? まざまざと脳裏に描かれていく、僕が出会う前の『彼』のその姿を前に、胸を詰まらせるような息苦しさはぐんぐんと募っていく。

 いまの彼はもう誰にも囚われていない、彼を傷つける相手はいない、自らそれを選ぶこともない、いままでは手に入ることのなかったはずの『あたりまえ』のささやかな日々を過ごして、些細なことで笑いかけてくれる――それでほんとうによかっただなんて、誰がそう言えるのだろう?

「大丈夫ですか?」

 気遣うようにそっとかけられる言葉に、精一杯のぎこちない笑顔と、振り絞るようなかすれた声で僕は答える。

「ありがとうございます、構いません」

 彼が抱き続けていたのであろうものに比べてしまえば、ずっと――。

「――続けてください、お願いします」

 まるで懇願のような口ぶりで必死に言葉を紡げば、そのすべてを受け止めてくれるかのようなゆるやかなほほえみが、固く閉じられていた口元に僅かに浮かぶ。



煌びやかな高層ビル群と商業施設が立ち並ぶ、なにもかもに不自由の存在しない、完璧に『作られた』大都市―その真裏に位置するエリアに存在する、貧民層がひっそりと息を潜めるように暮らす地図からは消されたままの名もない小さな町。それが、彼の生まれ育った場所だった。

 両親はともに地方都市を抜けだし、ささやかな夢に破れるようにしてこの町にたどり着いた者同士で互いに家族との縁は薄かったのだという。

 ふたりきりの家族として、慎ましやかではありながらもささやかな幸福と希望を胸に抱いて暮らしていた若い夫婦はある日、新しい命を授かる。決して恵まれた環境とは言えない――だからこそ、彼らは心から祈った。この子がどうか、希望に満ちあふれた光り輝く未来を歩いていけるように。

 それでも、無情なまでに運命は彼らの味方をしてはくれなかった。生まれてまもないひとり息子の成長を見守ることなく、母親となった彼女はあっけなくその命を落としてしまったのだ。

 最愛の伴侶を唐突に失い、ただ泣きわめくだけの我が子を抱いた男はひどく困惑しながらも、それでも必死だった。

 この子は彼女の残してくれた最期の宝物で、希望だ。なんども繰り返しそう言い聞かせながら、彼は必死に『父親』になろうとした。

 そうして何年ものあいだ、必死に抑え続けた思いはいつしか奇妙で醜悪な歪みを彼にもたらす。

 ――どうして自分は、彼女の命を奪ったあんなにも無力で役立たずの存在のためにこんなにも必死にならなければいけないのだろう。最愛の彼女の命を奪ったのは、ほかならぬあの子どもなのに。

 増え続けるアルコールと、仲間にそそのかされるようにして手を染めた違法薬物はいつしか彼の肥大した妄想を加速させ、肯定し続けた。

空想の世界に逃げ込んでしまえば彼女に出会える、自らを救わない醜悪なこの世界から目を背けていられる―それでも容赦なく目の前に迫り来る現実は彼を縛り付け続ける。

 怯えたまなざしをしたまま、非難するようにこちらを見つめてくるちいさな子どもは成長につれてますます最愛の彼女の面影を色濃く宿し、その永遠の不在を彼に容赦なく突きつけるのだ。

 きっかけがなんだったのかはきっとどうだってよかった。はずみのような勢いで手を下したその途端、彼の中で、『なにか』が弾けた。

 ひどく無愛想で無関心に見えた父親の息子へのコミュニケーションは、その日を境に暴力一辺倒に塗り替えられた。


 みなが堪え忍ぶようにしながら日々の暮らしをどうにかやり過ごす中では、互いの異変に気づいたとしても、助けを貸してやる余裕などはあるはずもない。

 ある日を境に増え始めた少年の痛々しい傷跡をいくら目にしても、彼の身をいくばくかは気遣えど、救い出す者はその町には誰もいない。それほどまでに、大人の言いなりとなって虐げられている無力な子どもの存在は、彼らの住まう町では『あたりまえ』の存在だった。

 絵本に出てきたような魔法使いがここから連れ出してくれるか、どうにか息を潜めて大人になるまで生き延びるか、はたまた―自らを虐げる相手を始末する術を身につけるか。苛烈な状況に置かれた子どもたちがいますぐここから這い上がるための現実的な選択肢は、はじめから存在していないのと同然だった。

 市民カードを与えられていない彼らは、『上』の街に逃げ込むことが出来ないからだ。 

ほんとうに『大人』になれる日は来るのだろうか。空腹と、絶え間なく受けた癒えることのない傷の痛みでろくに眠ることすらも出来なくなっていた無力な少年をつかの間だけ救ってくれるのは、古紙回収業者の男が時折こっそりと分けてくれたぼろぼろになった子ども向けの童話全集の本だけだった。

『ここではないもうひとつの世界』の扉が、こうして狭苦しい部屋の中でひとたびページをめくるだけ無限に広がっている。

 ―現実に押しつぶされそうになっていた彼にとってそれは、何よりもの『希望』に思えたのだという。

 藁にもすがるようなそんな思いで、それでも必死に与えられた命を燃やし続けていた彼が十歳の誕生日を迎えてからすこし経ったある日、唐突な転機が訪れる。一ヶ月近くのあいだ消息を絶っていた父親を訪ねて、彼ひとりが残された家へと借金取りが押し掛けたのだ。

 いまにも吹き飛ばされそうなあばら家に鳴り響く怒号と扉を蹴破らんばかりの物音を前に、彼はひどく混乱した。

 もうここにはいられない。だからと言って、彼らの前に姿を現したってきっと納得はしてもらえない。

 どこに向かえばいいのかもわからないまま、ひっそりと気づかれないように裏口を抜け出た彼はもつれる足で必死に走り続け、いつしか力尽きると、どうにか雨風を凌げる屋根の下にうずくまる。

 必死に走り続けた先でたどり着いた見慣れないその区画は、どこもかしこも奇妙だった。自分の住む地域ではあまり見かけないような裕福そうな身なりの大人や、きらびやかな衣装に身を包んだ人々が行き交い、あちこちにはけばけばしいネオンサインがお祭りの日の飾りのように軒先を彩る。

 行き交う大人たちの大半がこちらを一瞥すると野良犬を追い払うかのような侮蔑のまなざしを向けてくる中で、お酒臭い息を吹きかけるようにして意味深に「幾らか?」だなんて尋ねてくる男もいる。

 ――朝になれば、誰か親切な人にでも話を聞けるだろうか。次第に薄れてゆく意識とともに所在なさげに腰を下ろしたままでいると、けばけばしいこの街並みにはひどく不釣り合いな、上品な身なりをした大人の男性がじいっとこちらを見つめているのに気づく。

 ――怒られるのだろうか、それとも。もうなんだって良かった、暴力さえ振るわないでいてくれれば。

 父親と同じくらいの歳に見えた紳士は綺麗な服が汚れてしまうのもお構いなしにその場にしゃがみ込むと、じいっと彼の瞳を見つめながら尋ねる。

「ねえ君、さっきからずっとここにいるよね。どうしたの?」

 優しい問いかけを前に、ありのままを彼は答える。

「家で父親が帰ってくるのをずっと待っていたら借金取りがやってきて、家にいられなくなってしまって」

 しどろもどろに答える彼の言葉に最後までじっくり耳を傾けると、紳士はすぐさま迷うことなく彼を車に乗せ、煌びやかな『上』の街にある自宅まで連れ帰った。

 ―もしこれが子どものために紡がれた美しいおとぎ話なら、彼を救い出した紳士は天上からの使いになぞらえられるような存在だったのだろう。

 無情なことにこれは、傷ついた子どもがただ報われるための『物語』ではない。『子どもであること』を奪われた彼の人生そのものなのだから。

 まざまざと冷たい色を宿したまなざしをそっとこちらへと向けるようにしながら、神父は答える。

「それが、彼の最初の――そしていまのところは『最後』の恋人との出会いだったそうです」

 さめざめとした冷たい色に心の内を覆われていくこちらを前に、気遣うように視線を送りながら、ひどく優しい口ぶりで言葉は続く。

「ディディの傷だらけの身体を目にした時、彼はひどく驚いていたといいます。きっと見たくないものを見てしまったとショックを受けたのだろう、嫌われてしまったのだろう――怯えるディディを前に、ぽろぽろと大粒の涙を流しながら彼は答えてくれたそうです。ほんとうに辛かったね、もう平気だよ、よくがんばったね、いい子だったね。そう言いながら抱きしめて頭を撫でてキスをしてくれた時、自分がほしかったものはこれだったんだと生まれてはじめてそう感じたのだ、と」

 

その日を境に、彼の生活は一変した。どれだけ望んだとしても自分にはきっと手に入らないと思っていたもの―快適な住環境、清潔な衣服、行き届いた教育、余すことのない愛情――そのすべてが突如彼に与えられたのだ。

 乾いたスポンジがぐんぐん水を吸っていくように、愛情に飢えていた彼は、与えられるものを受け取ることに必死だった。それが決して純粋無垢な慈しみから生まれたものなどではなく、いびつに歪んだ情欲を伴うものであったことに、疑問の余地を挟む余裕はなかった。

 情動を向けられることへのおそれや不安はいつだって、優しい掌の温もりとあたたかな言葉が打ち消してくれる。必要ななにもかもを与えてくれる男からの『贈り物』に応えるために差し出せるものは、彼自身のほかにあるはずもなかったのだ。

「それでも、蜜月と呼ばれる時間はそう長くは続きませんでした。男の関心はいつしかほかの相手へと移り、ディディもまたそれに気づいていましたが、為すすべはなにもなかった。やがて男は、ディディの身柄を自身と同じ、お世辞にも褒められたものではない嗜好を抱く好事家へと明け渡しました。男の趣味は、彼の最初の恋人とはその実まるで違っていた。あちらこちらに綺麗に着飾らせた彼を連れ歩いては『新しいペットだ』と見せびらかし、客人の相手をさせていたのだといいます。同じ屋根の下に暮らしていても身の回りの世話をするのは使用人にまかせっきりで、彼自身はディディには指一本触れなかったそうです。ある日男は、ディディに尋ねたそうです。『おまえの望みはなになのかを言ってごらん』と」

 期待を込めるようにまっすぐに男を見上げながら、彼は答える。

「髪を撫でて抱き寄せて『よくがんばったね、いい子だね』と言ってもらいたい。あなたがそうしてくれたらいちばんうれしい」

 ――さまざまな『客人』は決して行儀の良い相手ばかりではなかった。それでも、ずうっと堪え忍ぶようにして彼らをもてなしていたのはひとえに、自身を引き取ってくれた彼に恥じないように―彼がいつか「いい子だ」と自らを抱きしめて褒めてくれることを信じていたからだった。

 それほどまでに彼は、愛されることに飢えていた。

「それならここにいるよりももっとふさわしい場所がある。男がそう言って彼を売り渡したのは、彼とおなじような『元子どもたち』ばかりが集められた、違法な経営の行われている娼館でした。そこで彼を見初めたのが、三年前に命を落とした婦人です」

 美しい黒い毛並みで身体があまり大きすぎない、従順でおだやかな気性の雄犬を一匹、工面してほしい。

 婦人の注文のもとにあてがわれた『黒い犬』は、はたして期待通り――いや、それ以上に彼女のお眼鏡に適うものだった。

 やや小柄なしなやかな肢体、ご希望通りのゆるやかに波打つかのような艶やめいた黒い毛並み、煮詰められた蜂蜜のようにとろりとあまやかさを滲ませた明るい琥珀の瞳、幼くあやうげな顔つき、そしてなによりも、懇願するような切実さでこちらを見つめる寂しげなまなざし。

 愛くるしい『犬』に、彼女はたちまちに夢中になった。

「彼女は『犬』をとても気に入って、まるで幼い恋に溺れる少女のようにうっとりとした口ぶりで彼のことを自慢していたそうです。無理もありません、彼女にとってのディディは、自らが描いた夢物語をそのままに実現させてくれる、理想通り―いや、それ以上の存在だったといいます」

「あなたは犬だから、人間の言葉を話してはだめよ」おおよそ信じられないような茶番を、彼はその最期の瞬間まで守り通し続けたというのだ。

 それがなぜなのかだなんてことは、当人に直接尋ねるまでもないことだ。

 ――主人が与えてくれる(かもしれない)愛に応えること。彼にはもうそれしか、生きる理由などあるはずもなかったのだから。

「通いの医師や身の回りの世話をしてくれる人間とも一言も言葉を交わすことはなかったと言います。ほんとうに、彼らしいとしか言いようがありません」

 わざとらしくあきれたように笑ってみせる姿には、こらえようのないいとおしさがひたひたと満ちている。

「……ほんとうに」

 力ない苦笑いで答えれば、瞼を細めた優しい笑顔が返される。

「人をそこまで追いつめさせたものがほかならぬ『人』であったことを、ただ苦しく思います。それでも少なくとも、私には彼女を責めることは出来ません。彼女の行いが到底赦されることではないとわかっていても、それでもです」

 きっぱりと告げられる言葉には、ひどく悲しい決意が滲んでいるかのように思える。

 言葉を詰まらせたまま口を噤むこちらを前に、どこか晴れやかなまなざしを向けるようにしながら、神父は答える。

「仕事柄、私は数多の生まれ育った環境に恵まれなかった子どもたちに出会ってきました。彼らには大抵、決まった共通点があります。相手の瞳を見て話をすることをひどくいやがる、食事や礼儀作法の基礎的なマナーを知らない、人に心を開くすべがわからない――無理もありません、彼らはそれらを知る機会が得られなかった。それらみなを、あらかじめ取り上げられてきたからです。でも、彼はそうではない。それがなぜだかが、あなたにはわかりますか?」

「……ええ、」

 曖昧に視線を揺らすようにしたまま力なく相槌だけを打てば、祈りのような静けさをはらんだ言葉がゆっくりと波紋を広げていく。

「神は決して彼を見捨てはしなかった。彼が必要としていた大切な贈り物を用意してくれていた―彼がそれに気づくことが出来る、強さとやさしさの持ち主だったからだと、私はそう思っています」

 言葉につられるようにして、いつか彼が聞かせてくれたささやかな思い出話を僕は思い返す。

 自身を省みることのなかった父親が彼のためにと用意をしてくれたクリスマスの翌朝の出来事を、彼はほかのどんな時よりも大切なかけがえのない思い出だとそう語ってくれていた。

「彼がこうして生きていてくれてほんとうによかった―傲慢だと言われても、そう思わずにはいられませんでした。私にはきっと、彼が心の底から求めてやまないものを差し出してあげることは出来ません。それでも、だからこそ、私に出来ることが何なのかをきちんと知っていたい、彼が求めるものがあるのなら叶えてあげたい――それがきっと、神が私に与えてくれた役割のひとつなのだと、そう信じているからです」

 迷いのない言葉は、ひたひたと音も立てないまま、乾いた心の内へと雨のようにしずかに染み渡っていく。

「ディディのそばにいてくださって、ほんとうにありがとうございます」

「……はい、」

 ふさわしくないのに、そんなこと。息苦しさをこらえるようにぎゅっと唇を噛みしめれば、途端に浮かぶのは、いつものあの、どこか寂しげな色を宿しているかのように見えた彼の笑顔だ。

「夕方には帰ると言っていました、そろそろ戻ってくるころだと思います。一度こちらに顔を出すと、そう言ってくれていたので」

 やわらかに告げられる言葉に、まるで背中をそっと押してもらうかのような心地よさを味わう。

「……ありがとうございます、ほんとうに」

 答えながら、いびつに震えた指先をきつく握りしめる。鈍い痛みは、いまここに生きている、ということの何よりもの証をいまさらのようにありありとこの身に伝えてくれる。



神はある日、天使へと命令を下す。この町でいちばん尊いものをふたつ持ってくるように。

 神の言いつけにしたがった天使はごみ捨て場に打ち捨てられたまっぷたつに砕けた鉛の心臓と燕の亡骸を差し出す。――一見みすぼらしく見えるそれは、この町でいちばんの『美しい魂』の主のものだったからだ。

 神は満足げにうなずいてみせると、ふたつの魂を天上の都へと導き、彼らに永劫の安寧を与えるのだった。

 いつか彼に聞かせてもらったひどく残酷で美しいおとぎ話の結末を、ふいに僕は思い起こす。

 自由な恋に生きることを選んだことで旅の仲間たちに遅れを取り、最期には心優しい親友に寄り添い、その願いを叶えてやるためにその身を捧げた燕と、何不自由ない王宮という名の檻の中に閉じこめられ、かりそめの『幸福』を与えられ続ける日々の中では知ることのなかった市井の人々の暮らしぶりを知り、その身を彩る輝きを失ってでも彼らに救いの手をさしのべようとした心優しい王子。

 気高く美しい魂の持ち主であった彼らが神様に見初められ、真実の『幸福』を授けられるのにふさわしい存在であったことに、異論はすこしも感じない。

 ――でも、それならば? 

 一部始終を見ていた神様はなぜ、王子に代わり、困窮にあえぐ町の人たちを救わないのだろう?

 寒さに弱い燕がこの町に居たままではあえなく命を落としてしまうことは明白だ。それならなぜ、神はいますぐにでも仲間たちを追いかけて旅にでるようにと、彼に一言そう教えてやらなかった?

 光り輝く黄金の都は、その実、彼が閉じこめられていた悲しみが入り込む隙が一切封じられた高い塀の張り巡らされた宮殿と何ら変わらない。

 悲しみや苦しみを一切知らずに済む、永劫の安寧の約束された場所――そこで終わらない命を与えられることこそが彼の望んだ最上の『幸福』だとは、一体誰がそう言い切れるのだろうか。

 全知全能の神とはその実、ひどく傲慢な傍観者に過ぎない。


 囚われの身のままだった彼に与えられた『幸福』はある日突如、音も立てずに静かに断ち切られる。

 ひとつの物語の幕切れと呼ぶにはあまりにも陳腐で乱暴な、演出家や舞台監督が目にすれば途端に匙を投げるようなひどい結末だ。

 舞台の幕が無理矢理に下ろされたその後も、肉体とそこに宿る魂が朽ち果ててしまわない限り、人生という名の物語は続く。

 ひどく滑稽で醜悪な――それでも、彼の心を確かに救ってくれたはずの『物語』があまりにも残酷な形で断ち切られてしまったこと。その後に続く人生が、彼をこの場へと招いてくれたこと――『それ』こそが神が彼に与えてくれた希望だと、そう呼んでもいいのだろうか。

 答えの出ない迷いに心を覆われていくのを感じながら、ゆっくりと瞼を閉じる。

 こんな時はどうすればいいのだろう。―祈りを捧げようにも、そのためのふさわしい言葉をすこしも知らないことにいまさらのように気づく。


 かたく閉じた瞼の裏では、鈍い光がゆっくりと幾何学模様を描く。五感を研ぎ澄ませるようにしてじいっと耳をすましていれば、やがて、蝶番を軋ませながら重い扉が開かれる音に続いて、よくよく聞き慣れた足音が静かに耳に届く。

 一定のリズムを刻む耳に心地よいその音は、僕のすぐ間近でぱたりと止まる。

「こんにちは、来てくれてたんだね」

 耳朶をやわらかにくすぐる声は、いつもよりもすこしばかり控えめで、かすかにくすんだ色を潜ませている。

「隣、いい?」控えめな呼び声を前に、静かに頷くことで答えてみせる。

 かすかにたちのぼる冷たい外の空気、そこにやわらかに混じる、土と草、それに光のにおい。確かめなくたって、もうずうっと前から知っている、この計り知れないほどの安堵感を。

 ゆっくりと瞼を押し開き、精一杯のぎこちない笑顔で僕は答える。

「……おかえりなさい」

 子どものような無防備なその笑顔は、幾重にもぶざまに絡まり合った感情をたちまちに、魔法のようにほどいてくれる。

「きょうはね」

 いつもそうしてくれるように、遠慮がちに笑いかけながら優しい言葉が投げかけられる。

「絵を見に行っていたんだ、ほら」

 答えながら、焦げ茶の革製のショルダーバッグからそっと差し出される半券に描かれた絵に、僕は思わずゆるやかに瞼を細める。

「君の本の表紙を描いていたでしょう? よく行くカフェにポスターが貼られていて、すぐに気づいたんだ。調べてみたらここからもそんなに遠くない場所だったから、いいなって思って」

「ああ、」

 やわらかに告げられる言葉に、ダイレクトメールの束の中に紛れこんでしまったままの招待状を受け取っていたことをいまさらのように思い起こす。

「ダンサーの青年とコーヒースタンドの女の子のお話がいちばん好きなんだ。読み終わったあとにもう一度表紙の絵を眺めていると、なんだかすごく安らかな気持ちになれる。気持ちの置き場がそこにあるみたいな」

「――ありがとう、」

 面と向かって言葉にされると、どうしようもなく気恥ずかしさはこみあげる。それがよくよく見知った相手ならば余計に。

 かすかに耳が赤くなるのを感じながらうつむいていれば、気遣うように軽やかに笑いながら、言葉の続きが投げかけられる。

「ルール違反だったならごめんね。伝えていいのかわからなくて―だって、僕といてくれる時の君は『先生』じゃないでしょう? それでも、これだけはちゃんと伝えたくて。すごくうれしかったから、出会えて」

「……いいのに、そんなの」

 いかにも彼らしいとしか言いようのない物言いに、思わずさあっと胸の奥は高鳴る。ひどく息苦しいのに、なぜだかおなじだけ、こんなにもあたたかい。言葉を詰まらせるこちらを気遣うように、優しいまなざしを傾けたまま、たおやかに言葉は続く。

「すごいよね、絵は。まるで見たことのないはずのものばかりなのに、不思議と自分の心の中にあるものと、自然と重なり合っていくみたいに思えて――なんでかなんてわからないのに懐かしくて、うれしくって。すごいなって思ったんだ。それを形にすることを選んで、たくさんの人に届けることが出来るようになって―そうすることでもしかしたら、もう会えなくなってしまったたくさんの人たちの元にも自分の気持ちを届けることが出来るのかもしれないんだなって」

 力なく滲んでいく言葉の端には、隠しきることの出来ない想いがひたひたと漂う。

「――ここに、来るまでにね」

 なにかを決意するかのように、きっぱりとした口ぶりとともに揺らいだ視線を傾けながら、ディディは答える。

「ほんとうにたくさんの人に助けてもらったんだ。ひとりではどうにも出来ないことばっかりで――ほんとうに無力で。そんな時、いつだって力になってくれる人がいた。手を貸して、僕に出来ることがなになのかを教えてくれた。必死だったと思うよ、いつでも。自分ひとりで立つ方法なんてすこしも考えようとしなくって、誰かに必要としてもらうことばっかり考えてた。そうやって、ずっと逃げてたんだよね―応えればその分だけ返してもらえるだなんて、結局のところはあまえているだけでしょう?」

「――そんなこと」

 力なく答えるこちらを前に、打ち消すようにきっぱりとかぶりを振ってみせる仕草とともに、おだやかな言葉は続く。

「ほんとうの意味でひとりぼっちの人だなんて、この世のどこにもいないでしょう? そのことをみんなちゃんとわかっていて、だから自分のことも隣にいてくれる人のことも大切に出来るんだよね。そんなあたりまえのことだってずっと知らなかった――自分ひとりで立てないなんてわけじゃなかった、そんなことすら考えたことがなかったんだ。いつもそんな風だったんだから、一緒にいてくれた人とはみんな離ればなれになっていくことしか出来なかった。あんなに大切にしてくれたのに、もう二度と会えない。そんなこと、望んだらいけないのも知っている――それでも、すごく愛していたことも、その時間がお互いにとって大切なものだったこともみんな間違いじゃないって、だからそのまま大切に思っていていい、捨てたりなんかしなくたっていいんだってハーヴェイさんは言ってくれたんだ。そんな風に言ってもらえるだなんてずっと思ってなくて――うれしくて」

 おだやかに告げられる言葉には、二度と帰らないはずの時間への寂寥が痛々しいほどに色鮮やかに滲んでいる。

「ディディ、」

 遠慮がちにそっと、そう声をかける。

 ただ名前を呼ぶ、それだけのほんの些細なことにこんなにも心が震えるだなんてことをずっと知らずにいたことに、いまさらのように気づく。

「……ごめんね」

 気弱に投げかけられる言葉を打ち消すように、きっぱりとかぶりを振って僕は答える。

「謝らないで、お願いだから」

 ――望んだのは僕のほうだから。かすかに滲んで見えたまなざしをじっと見つめていれば、答えるかわりのようにしずかに花の咲きこぼれるような笑顔が返される。

「……ありがとう」

 振り絞るような切実さで届けられる言葉に、心ごと締め付けられるような心地を味わう。

「ありがとう、ほんとうに――ありがとう、」

 ひきつった指先が、言葉に呼応するように鈍く痛む。こんな時、どんな風に手をのばせばいいのだろう。そんな風に願ってしまうこと自体がひどく傲慢な行いに過ぎないのだろうか。息苦しさは胸を詰まらせ、心に浮かんだいくつもの言葉をたちまちに逃がしていく。

「いいよ、そんなの」

 答える代わりのように、瞼を細めたしどけない笑顔が返される。


 ありがとう、君が生きていてくれていて。

 言葉になるはずのない想いは、音も立てずに静かに虚空に溶けていく。



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