「夢枕に立つ祖母」

 今回の話は私が中学生のときのことであり、他の話とは時期がズレています。

 また、内容としては夢を見ただけの話であり怪奇現象というには少し弱いです。そのうえ十数年も過去の出来事であるので所々にあやふやな部分もあり、これまでの話と違って曖昧な表現も増えると思います。ですが現在でも記憶に残る、不思議な体験でしたのでお話ししたいと思います。


 私はいわゆる「おばあちゃんっ子」と言われるものでありました。

 幼少の頃などは、夜一人で寝るのが怖いからと度々たびたびに祖母の布団に潜り込んでおり、はっきりと睡眠を妨げていたと思います。しかし彼女はそんな私を邪険に扱うこともなく、その度に優しくなだめてくれました。私はそんな祖母が大好きで、全幅の信頼をおいていた子供時代であったように記憶しています。

 祖母が亡くなったときは、それはまあ悲しんだものですが、誰もが必ずとおる道です。私が成長し日々の生活を送っていく中で、少しずつ激しい気持ちの揺らぎはしずまっていきました。そして数年も経過して祖母との記憶を思い返すこともまれになってきた頃、私は一つの事件の起こします。

 母と大喧嘩したのです。

 内容は覚えておりません。

 ただどうしても許せないことがあって母と衝突しました。私も当時は分別のついていない子供でしたので言ってはいけないことすら口にしました。もちろん母の方も反発して、二人とも譲らず。私は不貞腐れて自室にこもり床につきました。

 絶対に引き下がるものかと、正しさは自らにこそあるのだと、心に決めて目を閉じます。子供らしい偏った正義感と融通の利かなさだったと、今では思います。

 

 翌朝。

 私は自室を出ると、リビングにて諸々の朝の支度したくをしていた母に向かって口を開きました。


「昨日はゴメン。言い過ぎたと思う」

「なに、突然?」


 私の急な心変わりに、母は目を丸くして尋ねてきました。

 当然です。私が一晩たって冷静に物事を考えられる、殊勝な性格ではないということは彼女がよく分かっています。

 母があまりにもいぶかしむので、私は渋々と昨夜の夢の内容について語りました。

 

 そこは何処ともいえない場所でした。

 ただ真っ暗だった気もしますし、世界一面が真っ白な空間だった気もします。

 そんな中で、私は祖母と対面していました。

 正直に言うと、驚きました。

 祖母の夢を見るというのは初めてのことであったからです。祖母が亡くなったことを悲嘆していた頃でさえ、夢に現れたことはありませんでした。それがどうして今なのか、そんな風に困惑していた私に対して挨拶もなしです。私も何事かを問いかけようとしましたが、言葉が出ませんでした。

 祖母はただ困ったような様子を見せると、ふと表情を改めます。

 それは幼少の頃、私が布団に潜り込んだときに見た優しい笑顔ではなく、厳しく何かを律しようとする気配にあふれていました。


 そしてただ一言――


「お母さんを、あんまり困らせなさんな」


 そう告げられました。

 その後は場面が切り替わり、脈絡もないただの夢に戻りました。

 祖母の余韻はまったくありませんでした。


 その夢のことを話すと、母は泣きました。

 私がどれだけ酷いこと罵ろうともガンとして突っぱねていた彼女が、打って変わったようにボロボロと泣き崩れました。母方の祖母でありますから、彼女にとっては実の母親であります。それも仕方ないことかもしれません。

 しかし目の前で母親に泣かれた私としてはただただバツが悪くて、さっさと学校へと登校しようとしました。ですが「仏壇に手を合わせていけ」と言われて、それに従いました。その後、そそくさと屋外へと退避したことは覚えております。


 時が経ち現在になって、あの夢というのは特別だったなと思っております。

 私は夢を見る際にはあまり言語は出てきません。大体が映像に関するイメージが強いです。それでもこの夜に告げられた一言ははっきりと思い出せます。私が今まで見た夢の中でも最も印象深くて、忘れられないモノでありました。


 今作品の語りは過分な脚色をしていると「はじめに」でも申しました。ですが今回の話は正真正銘、実体験の怪奇現象であることを、ここに誓言せいげんします。

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