第219話 幕間

「戻りました」


 久々に外に出ると気分転換にはなるが、いつも以上に疲労が溜まる。

 普段は室内での作業が多い、それが珍しく外に出たのは少しほとぼりが冷めたからと言う理由だった。


「問題なかったか?」

「何も。少し手間取りましたが」

「そうか」


 そして最近主人の様子がおかしい。

 前はふんぞり返っていたのがあまり見られなくなった。前ならこの場で叱責されていたであろうに。


「外はどうだった?」

「疲れました。しかし、ちゃんと成し遂げたかと」


 今回の任務は俺には難しくなかった。

 ただ自分の特技を活かして動いただけだ。なにも思うところはない。


「そうか」


 さっきと変わりない返事はただの相槌だ。本当のところの質問の意図は分からない。単に労いなのか、粗を探しているのか。


「また次も何かありますか?」

「……いや、ない」


 一瞬の間が空いたがどうやら今日の所はお役御免の様だ。


「下がりますのでまた何かあれば。それまで家の掃除でもしておりますので」

「待て」


 急な呼び止めは珍しくない。ただ、覇気がない。いや、元々そんな器じゃない、ただ、勢いがないだけだ。


「何でしょうか」

「オーラン、お前はこれから何がしたい?」


 何を言われるかと思ったが他愛ない事だった。


「特に。ただ、主人の下で働くだけですが」

「……そうか」

「えぇ」


 ここまで意味のなさそうな問答は初めてだった。


「それでは失礼します」


 なんとも言えない空気を共有しているのが嫌で部屋を一秒でも早く抜け出した。

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