第196話 ウェルズの実力
マルズ君の勝ちが宣言されると周りから勝利を讃える様に拍手が鳴り響く。
私も周りに負けじと拍手でマルズ君の初陣での勝利を祝福した。
「勝つと自分を宣伝できる分、負けた方は今から卒業までに今以上に頑張らねぇといけねぇのが、この試合の大変なとこなんだよ」
ヤンが教えてくれた。
だからこそ、この場に参加することを決めた人数は学年の人数に対してそこまで多くないのだろう。
そのリスクを背負ってまで、この場に参加するメンバーはすごいと私は思った。
「あいつやるじゃねーか」
ヤンが素直に人を褒めた。
いつも一言が多い気もする彼だけど、この場ではそんな事もなく、純粋にマルズ君への賞賛だけが、口から出ていた。
初戦を飾った二人が陣の中から出ていくのと交代で入って来たのはウェルズだった
場慣れしているのか、さっきの二人、そして隣で一緒に歩いている対戦相手とは違って堂々した雰囲気が漂う。
片手には長い棒を携えている。彼は槍の方が得意らしい。
両者が見合う。だけど、ウェルズは構えない。
「始まる前に聞いておくよ。先手と後手どちらが君は得意かな?」
周りにも聞こえる様芝居掛かった声でウェルズは対戦相手に向かって尋ねた。
対戦相手は質問の意図が分からないのか、答えない。
「警戒しなくてもいいよ。私は君よりも年上だ。だからこその提案だよ。得意な方で始めてもらいたい」
つまりハンデだ。年上だから相手が有利な状態で始めてあげると言う余裕の現れだ。
「そ、それなら先手で! お願いします……」
緊張のせいか、はっきりと叫んだが、声が尻窄みになっていく。
「遠慮なくおいで」
言葉とは裏腹に武器を構えない。さっきまでと体勢は変わらない。
その態度はまるで見せつける様にしている。
「始め!」
初戦と同じ合図で模擬戦が始まると、先手を譲られた少年が駆け出した。
スタートを切った足は勢いよく地面を蹴ってウェルズへと少年の身体と武器へと向かっていく。
距離を縮めて武器をウェルズに向かって横薙ぎで繰り出す。けれど、その一撃は届かない。
身体に到達する前に木の棒で防がれていた。
ただ、少年はそのまま押し込む様にして距離を縮めて密着する形になった。
「あれでいい。槍は長さが持ち味だからな。お互いの間が縮まれば剣の方が有利になる」
ヤンが状況を説明してくれる。私もなんとなく理屈はわかっているが、やっぱり専門の人が言うと説得力が違う。アンもユリもヤンの言葉に耳を傾けている。
「そしたらこのまま攻めていけば勝ちですの?」
「いや、そうでもねぇな。不利な状況こそ想定してるだろうしな」
アンが言うように単純ではないらしい。
ヤンの言葉に通り、ウェルズの表情は余裕で満ちている。
防御をしていた武器をずらして、武器のぶつけ合いを外した。そして少年の後ろに回り込んで組み伏せた。
その一連の行動は予定されていたかの様に綺麗な流れで、一瞬何が起こったのかが分からなかった。
このまま勝負が決まるかと思いきや、ウェルズは組み伏せた状態を外して立ち上がった。
そして、最初の立ち位置に戻るとさっきの様に高らかに言った。
「さぁ、仕切り直しだ。次は私が先手を打とうか」
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