第195話 初陣

 模擬戦が始まりだすと、いつもにぎやかな交流会が一層にぎやかになった。

 陣の周りには人だかりが増え続けて、後ろの人は見えているのか気になるところだ。

 そんな中、私は最前線で陣を見渡せるようにしていた。もちろん、ヤンを始めとしてアンとユリィもだ。

 ただ、アリスとユリの姿はなかった。アリスはこの人だかりでどこにいるかが分からない。ユリは模擬戦に参加するために、この人だかりの視線の集まる場所に行っている。

 参加者は8人、全員が揃うと教師と思われる人物から挨拶が始まり、簡単な注意喚起が行われた。

 ルールは簡単で、陣の中でお互いの背後にある人形を守りながら戦い、人形に先に一撃を入れた方が勝ちだ。もちろん、参加者同士が戦うので、降参と言う敗北ルールもある。

 武器は貸出のもので、木で出来た剣か、槍に見立てた木の棒になる。使いやすい方を選んで戦うらしい。

 そして、模擬戦が始まった。

 トーナメント制になっていて、幸いなことにユリとマルズ君は別のブロックになっていて、初戦からマルズくんの出番になっていた。


「両者前へ!」


 教師陣から声が上がり、該当者二人が陣の中に入る。お互い木で出来た剣を片手に携えて、緊張した顔つきでお互い距離を置いて向かい合う。

 マルズ君の対戦相手は私の知らない子だった。


「始め!」


 開始の合図が宣言されると両者が武器を構える。

 お互いにすぐには動かない。見合ったままで、じりじりと距離を詰めていく。

 初戦という事もあってか見ている側にも緊張していた。自然と息を呑んでいた。

 ただ、そうなっているのは一部の人間だけで、ヤンなんかはいつも通りの表情だった。場数の違いか、それとも歳の差かは分からないけど。


「頑張れ! マルズ君」


 張り詰めた空気なのは分かっている。だけど、私はこの中で一番か、二番目に緊張しているであろう、人物に声援を送った。

 周りの目がこっちに向いて来たのが分かるけど気にしない。

 マルズ君はこっちを全く見ないまま、相手を見据えている。

 先に動いたのは相手側だった。

 真っ直ぐとマルズ君への距離を詰めて剣を縦に振り下ろす。

 マルズ君はそれを頭の上で受け止めた。

 二人の武器がぶつかって鈍い音が鳴った。乾いた木同士が擦り合う音。

 そして、相手が止められた剣を次の攻撃の為に引いた瞬間、マルズ君は相手の胴体に一撃を入れた。

 攻撃を防いだ場所からの斜めへ下す軌道は防御の隙を与えずに完璧に相手を捉えていた。

 さらに一撃を入れて、そのまま相手の背後に立っている人形へと走り込んだ。

 相手はその行方が見えていた、だけど、反応が出来ていなかった。

 そのままマルズ君の剣が人形へと一撃を入れた。


「勝負あり!」

 

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