第168話 総長からの誘い
総長のいる部屋は校舎の最上階である5階に位置していた。
各学年毎に別れている階層ではあるが、この部屋がある5階には総長のいる部屋以外は物が置かれている部屋などが並んでいる階になっている。こんな用事でもなければ来ることはまずない場所だ。
「失礼致します」
アーネスさんが軽くドアをノックして、部屋の内側から聞いた事のある声で返事が来てからドアをゆっくりと静かに開いた。
「来てもらってすまないね。少しそこに座って待っていて欲しい。キリのいいとこまで読んでしまいたいんだ」
促されるまま、部屋の中心部に置かれているテーブルとソファに座る。
アーネスさんは私をソファまで送り届けると、部屋を出て行った。
部屋の大きさは教室ほどのもので、机の数が少ない分広く見えた。それでも壁に配置された本棚の多さで部屋自体は少し窮屈にも感じる。
壁には学院の絵などがいくつか掛けられている。
「すまない、お待たせしたね。本当なら自分で君の教室へと行くべきなんだが、生徒からの意見が多くてね。それを読むのが忙しくて、君を迎えに行けなかった」
「いえ、私は大丈夫です。お忙しいんですね」
「本来ならそこまで忙しくはないはずなんだが、俺が自分で全ての意見を見ないと納得しない主義でね。周りの人がやる仕事を勝手に奪ってるのさ」
仕事がひと段落ついたのか、私の元へとやってきて、昼間見せた笑顔で話しかけてきた。
言動から結構生徒よりな考えがあるのが分かる。
「君も不満や改善点があれば投書箱へ入れておいてくれ。そうだな、あまり周知できていないから一年生みんなに言っておいてくれるとありがたいな」
「私なんかが言ってもそんなに影響力はありませんよ。もっと交友関係が広い人とかに言わないと」
「そんな謙遜しなくてもいいよ。間違いなく君は一年生の中でも影響力のある人間だ」
どうも一目置かれているらしい。この人もあの噂を聞いてのことなのだろうか。だとしたらやっぱり少し心苦しい所はある。
「もしその評価がガルド城での功績が影響していると言うのであればそれは間違いだと私は訂正させて頂きます。私だけの功績ではありませんので」
総長は驚きの顔を私に見せた。ただ、その表情もすぐにいつもの笑顔に戻った。
「君の評価に対して、噂のことが入っていないとは断言出来ない。だけど、それは俺の中では小さな一因でしかないから安心してくれ。君に対する評価は俺の目で見たもので判断しているつもりだ」
笑顔は絶やさないままだが、言葉の重みがさっきまでとは違った。声を荒げたわけでもない、体勢を変えたわけでもない。ただ、さっきまでの言葉とは迫力が違った。
「人間って言えないこと、言いにくいことはたくさんある。だけど、匿名にしたらみんな色んな意見が出て来るんだ。言えないのは個人が分かるからだと思う。それでも君は面と向かって上級生に対して言い返していただろう」
「あれは総長様の勘違いですよ」
「そう言うことにしておくよ。ただ、あの状況でも言い返せない人間もいるんだ。それでも君ははっきりと自分の意思を言った。そう言う人間は周りから好かれて、自然と影響力が出て来るものさ」
「言い過ぎると逆に嫌われる事もあるとは思いますよ」
「だろうね。けど、間違ったことを言っていなければ、大丈夫。君はそんな人間じゃないだろう」
どうやらあの場では私の顔を立ててくれていたらしい。
「君は友達とも友好にしているだろ、この学院は家柄のこともあってか中々平たく友人関係を続けられる人が少ない世界だからこそ、君はまた輝いているのさ」
「褒めても何も出ませんよ」
「さっき言った噂の要因もそこさ。自分だけの手柄じゃないと言いたいんだろうが、それは君の周りに人が集まっての結果だ。つまり、君には自然と影響力が何かしらあると俺は考えて、君に対する評価をだしたのさ」
「そこまで褒めて頂いたら悪い気はしませんね。ありがとうございます。それで、総長様は私にどのような要件があったのですか?」
ほっておくとずっと私に対する評価の話で日が暮れそうな勢いだったから私から話の軌道を本筋へと戻す。
「そうだったね、すまない。つい話しすぎてしまった。君としたい話と言うのは俺の派閥に入らないかいって事さ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます