第155話 フランソワとオーラン
「フランソワ様は今日も綺麗ですね」
側から聞けば嫌味にしか聞こえない言葉でも、ユリが言ってくれるならそれは嫌味に聞こえない。
もちろん私の近衛騎士だからっていうのはあるとは思うけどそれを抜きにしてもユリの事を私は信頼している。
「ありがとうユリ。ユリも綺麗よ。細身の姿が似合うのが羨ましいわ」
「ありがとうございます。今日は動きやすい服装にしていますので」
今日のユリの服装は学校にいる時よりも少し地味目な服装だった。でもどことなく気品さのある佇まいは流石ユリとしか言いようがない。
「私はもう少ししたら離れますね。遠からず、近づきすぎずの場所にいるようにします。何かあればすぐに駆けつけます」
「そこまで気合入れなくても大丈夫よ。ただ街を歩くだけなんだし」
「街だからこそだと自覚下さいね」
「分かったわ。ありがとう」
どことなくホリナとのやりとりを思い出す。
ホリナは今日は家で留守番をしている。ちゃんと護衛がいる、それも2人も。しかもうち1人は前の事件の時に私を守ってくれた人、もう1人はガルド城で私を守ってくれた人ということを伝えると私の外出を快く認めてくれた。
「ヤン先輩は先に街に入ってますよ。私とは違う所で見てくれているとのことです」
「この街の出身だしね。ヤンなら安心ね」
時間はもう少しで昼になるくらいだ。ユリとの待ち合わせもあるから早めに来たけど、周りを見渡してもオーランの姿はない。まだ来てないみたい。
「それではここで失礼します」
一言言い残してユリは雑踏の中に消えて行った。
近衛騎士とはいえ休みの日にまで付き合ってくれるんだからお給料を出さないと行けないとは思うんだけど、その話をしたら2人には断られた。
『一人前でもない奴の護衛なんて所詮は訓練だ』なんてヤンは言ってたけど、私としては何かを返したい。せめて今日の終わりにはご飯くらいはご馳走させて欲しい。そうでないと心苦しいものがある。
そして待つこと10分ほどでオーランが門の方からやってきたのを見つけた。
見慣れた服装の彼は画面の中にいた通りの姿だ。
「お待たせしてしまってすみません。それに服も……、あまり人と会うような服を持っていないので」
「いいのよ、私が早く来ただけだから。それに服装も気にしないで、本人が着慣れた物が1番よ」
別段彼が謝るほどの事でもない。それに私としては、私の知っている普段通りの彼の方が良い。最終的には見た目だけじゃなくて、話し方まで私の知っている彼になって欲しい。だからこそ、今日私は頑張らないといけない。
「お腹空いたでしょ? 早くいきましょ。少なくとも私はもうお腹が空いちゃって大変なのよ」
「良家のお嬢様でもお腹は空くんですね」
「当たり前よ。人間だもの、もうお昼なんだしね」
「いえ、すみません。自分の知るお嬢様とはイメージが違ったので」
その言葉はどこか私に突き刺さる。そう、私は本物のフランソワなんかじゃない。所詮借り物でしたかない。
「ごめんね。なんかイメージ崩しちゃって。今の私はこんなものよ。ほら、早く行かないとお店混んじゃうから」
でも今の私は他の人からすればフランソワだ。それは紛れもない事実。これは私がこの世界にいる限りはずっとのしかかってくる気持ちだ。忘れたくても忘れられない。
だから私は私なりにフランソワとして彼女を良い方向に誘導していく。導くなんて偉そうなことは言えない。理由をつけて私のしたいことをしているだけだから。
いつか私がこの世界からいなくなってしまうようなことがあれば、本当のフランソワが楽しくこの世界を生きていけるように彼女の周りを明るくしておく。
「そ、そうですね。すみません」
そのためにも、私のためにも、目の前にいるオーランを今日口説き落とす。気合は満タン。後はこの後行動にかかっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます