第97話 月明かり照らすもの

 明かりが消えた玄関ホールはさっきまでとは違う空気を醸し出している。

 静まりかえった空気の中、一筋の光が差し込んでいる。空気中に漂う埃すらも見えて来るその光の柱にその場にいた誰もが言葉も発さずに見惚れている。

 月の光が天窓を通って『天を探す魔女』と呼ばれている像を明るく照らしていた。

 人工の明かりの中で見ていたものとはまた別の作品の感じるほど雰囲気は違っている。

 空を見上げる表情は儚げにも見えるし、光の先を喜んで見ているようにも見える。髪の部分も滑らかな作りがまるで本当の髪のようにも見えて来る。

 私が像に見惚れているとシャンデリアの明かりがついた。

 その眩しさに思わず目を瞑る。

 目を開けると最初に来た時と同じ玄関ホールが姿を見せていた。

 私はバランさんに向けて頭を下げて感謝の意を伝える。

 バランさんが動いたので私もバランさんの方に向かう。


「ありがとうございました! 想像してたものが見ることができました」

「それは良かった。私も見惚れて明かりをつけるのを忘れそうになりましたよ。この像にあのような見せ方があるとは……。あなたはさっきの話からこのような場を見れると思ったのであれば大変素晴らしいことです。感服でございます」

「た、たまたまです」


 頭を下げられてまで褒められると照れ臭すぎる。それにあの像が見れたのは本当に偶然の産物だった。私の本命はそれじゃなかったのだから。


「私も見回りをしてきた中であのような現象は見ることはなく、初めてでございました」


 警備の人もやはり見たことはなかったらしい。

 つまり、予想通りあの現象はこの時期でしか見られないらしい。私の中で色々と謎と謎が繋がってきた。


「今回はありがとうございました。許可を頂けなければ見れませんでした」

「私達も良いものを見ることができました。お互い様でございます」


 その場で別れを告げて私は部屋に戻って行く。

 明日は最終日だ。今夜私が見つけたことを話してユリと共に、この城の秘密を見つけるための行動を起こさなくてはいけない。

 そのためにまずは月の奇跡の正体からユリに説明しないといけない。

 

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