第63話 戦いの後に

「完全には折れてないな。大丈夫だ。時間が経てば治る。それまでは動かさないように縛っておく。痛かったら痛み止めでも噛んどけ。アルの方は一時的なもんだ。お前に比べたら軽傷だ。ったく無理はすんなって言った意味なんもなかったじゃねーか」


 そう言って昼間にホリナを見てくれたお医者様はアルとヤンを診てくれていた。

 突然の深夜の訪問に文句も言わなかったけど、最後には愚痴が出てきた。


「まぁ、お前らが何してこうなったかは察しがつくが、知らなかったことにしておいてやる。とりあえず俺は寝る。なんかあったら呼べ。この部屋は貸してやるからゆっくり休むなりなんなりしろ」


 私達からの感謝の言葉には腕を上げて反応してくれながら部屋を出ていった。


「とりあえず、良かったね。怪我はしたけど生きててさ」

「まぁな、けどなんでお前らがここにいるのかは意味わからねーし、この短剣を持ってる理由も意味わからねぇよ」


 さっきヤンに投げた短剣。それを片手にぼやいた。


「そ、それはねぇ…………」


 今日ヤンと別れてからの事をアルと一緒に説明した。アルを説得したこと、フロストに会ったこと、そしてヤンのお父さんと話したことを全て。その話を黙ってヤンは聞いてくれた。

 横やりは入れてこなかったけど、表情はよく変わっていた。お父さんの話の所なんかはとても恥ずかしそうにしていた。


「経緯は分かった」


 ヤンは少し不満そうな顔をしてこっちに見ている。


「言いたいことは分かる。だけど僕たちが居なければ、フランソワ様が居なければ君は死んでいた。だから……」

「分かってるよ。2人がいなけりゃ俺は負けて斬られてた。ありがとうよ。文句は何にもいえねーよ」


 いつものヤンに戻ってる。気さくで言葉は雑なヤンだ。その反応を見て私とアルは笑った。


「だったら次は私の番。フロストの言葉の意味ってなんなの?」

「言葉通りだ。俺たちはあの場にいなかったって事の方がいいってこった」

「ヤン。それじゃフランソワ様には伝わらないよ。もっとちゃんと言わないと」

「つまりだ。今回の事件は下層での出来事だ。それにあんたらみたいな身分のいい人が関わるといい噂は立たないだろうって話だ」

「そんなの私は気にしないのに」


 実際関わったのだから別に私は気にしない。嘘じゃなく本当なんだから。


「そうもいかないだろ」


 ヤンが呆れ顔で言う。


「それならなんでヤンもだったの?」

「あんたらの付き添いだ」


 今度はアルが「やれやれ」と言った顔をしながらヤンの言葉に反応した。


「違うだろ。騎士学校に行ってる君だからこその気遣いだろ。君は下層のヒーローなんだから」


 その言葉にヤンはそっぽを向いた。

 理解はできた。フロストは私達が関わったことで不利益にならないようにと気遣って逃がしてくれたんだ。死人も出た事件に関わっていたらきっと私達にも、周りにも話がくるだろうから、そして、下層出身で騎士学校に行ったヤンの足を引っ張らないために。


「フロスト達はどうなるのこれから?」

「そこはうまくやるだろ。相手は野盗崩れだ。なんとでも言えるさ」

「そうだね。重罪にはならないだろう。あくまで身を守るための行動だったと言ってしまえば、下層の住民もそれが正しいと後押しもするだろうし」

「人望のあるフロスト達だからこその結末ね」


 そう思うと改めて実感する、終わったんだと。自覚すると突然眠気が襲ってくる。疲れた。緊張が切れてそのまま椅子で眠り落ちそうになる。早く宿に帰ってホリナにばれないようにしないといけないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る