第61話 決着

 自分の周りを見渡して手頃の石を拾った。小さすぎず、私の手のひらで包めて、適度な大きさのあるものを拾って建物の陰から飛び出して構えた。

 私だってキャッチボール位はしたことがある。後はこのフランソワの腕の力を信じて投げるのみ。

 狙うは身体。倒すためじゃない、こっちに注意を引き付けるための石つぶてだ。面積の広い身体に向かって投げる。


「せーのぉぉぉ」


 掛け声と共に思いっきり渾身の力で石を投げた。直線的な軌道で石は大男の方に飛んでいく。掛け声に気づいて大男がこっちを向いた瞬間に石が直撃した。

 狙った位置よりも高い場所に飛んで行った石は見事に男の顔に吸い込まれるかのようにヒットした。「ノーコンでも当たったから問題なし! よっしゃあ!」と思わずガッツポーズを決める。


「ヤン! これ使って!」


 懐から短刀を取り出してヤンに向かって今度は低く投げた。勢いもそんなにつけずにヤンの前に落ちるように。




 突然のフランソワの行動に目が覚める。

あいつがこんな危ない場所で勇気出して出てきてんのに何諦めてんだよ俺。

 右手は使えない、左手はまだ動く。それでもこれは2回目の勝機だ。次は逃さない。

キースはまだ顔を押さえて痛がっている、フランソワの投げてきた剣に飛びついて革鞘を外して左手で構える。

 なんでこの見慣れた短刀をフランソワが持っているのか、思う点はあっても今は後回しだ。目の前のキースに集中する。

 短刀がキースの体を引き裂いた。慣れない左手と右手の痛みで深い1撃は入れられていないにしても手数で圧倒するしかない。

 1撃入れたところでキースは顔を押さえたまま、左手で内側に仕込んでいた短刀を持ちだして構える。

 こっちの攻め手に対して防御して刃を徹底的に防いでくる。それでもこの時間が勝負の分かれ目だ。こっちは片手しか動かせない。キースは今は顔を押さえているがそれももう少しで解放されるだろう。だから息の続く限り左手を振るう。

 次第に相手の防御をすり抜けて体に浅い1撃が刻まれていく。それにつれてキースの動きが鈍くなっていく。押せるこのまま行けば相手が先に倒れる。


「ふざけんあぁぁぁぁ」


 咆哮と共にキースの顔を押さえていた腕が解放された。そのまま懐の短刀に手を伸ばす。だが、その一瞬の隙を見逃さない。いや、狙っていた。絶対に目の前以外に注意が向く瞬間を。

 出せる力を全て右足に乗せて踏み込む、体全体で左手を振るって勢いつけた1撃。それは今の俺に出せる全力の1撃。それをキースにぶつける。

 防御は間に合わない。キースにつけた傷から血が舞う。


「お前も終わりだろぉぉぉ。調子に乗んなぁぁ! お前だけでもなぁ!」


 キースの右腕が俺の左肩をつかんだ。振り払おうにも力の入り方が尋常じゃない。最後のふり絞った力だ。せめて最後に俺だけでも殺す。その意思がはっきりとしている。

左手の短刀が弱々しく俺をめがけて振り下ろされた。

 鮮血が宙に舞った。雨が舞った血を一緒に俺に叩きつけてきた。

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