第52話 私のしたいこと 後編

「申し訳ない。意地の悪い質問だったね」

「えっ?」


 オーガストさんはお茶を口にしながら自分の質問を批判した。


「騎士になるという事はそういう事だ。怪我をするし、死ぬかもしれない。自分から進んでその道に進んだ。だからあなたが気に病むことはない」

「でも私は言われて気づきました。確かにそうなんです。私から危険な立場に任命しようとしている。こんな状況に巻き込まれて初めて実感しました。剣を向けられることの怖さ、自分も相手も怪我をする辛さ。目の当たりにして初めて少しは実感できました」

「あなたは優しい人だ。そしたらどうしますか? ヤンを危険な立場に立てることを辞めるのですか?」


 その質問とオーガストさんの表情から私は試されていると感じた。自分の息子をどうするつもりなのか。私の言う心配と言う言葉が本心なのか。


「私はヤンを近衛騎士にすることを諦めません。後付けにはなりますが、私は今言われたことがあるからこそ、近衛騎士に団を作りたい。近衛騎士は危険な仕事かもしれません、でも、複数人いればそれだけリスクは減っていきます。だからこそ私はヤンとアル2人とも私の近衛騎士にしたいんです」


 一気に自分の考えを口にしてから目の前のお茶を一気に飲み干した。

 そんな私をオーガストさんは表情を変えることなくずっと視線を動かさずに見てくれていた。アルの方を見るとふいに目があった。だけどアルは何も言わない。


「そうか、あなたがそんな風に思ってくれているのであれば、私としても安心だ」


 オーガストさんが表情を朗らかにして私に言葉をかけてくれた。


「息子を。ヤンをお頼み致します。意地っ張りで首を縦に振らないかも知れないかもしれませんが、諦めずに説得してあなたの近衛騎士にして頂きたい」


 そう言って深々と頭を下げられた。その行動には私もアルも驚いてすぐに止めに入った。それでも頭を上げてくれない。意志の堅さが溢れてる。


「わ、分かりました。むしろ私が頭を下げるべきなんです! 逆ですよ!」

「そんなことはありません主となるあなたは悠然としておくべきです。それが側近、下の者、御付にも安心感を与えるのだから」


 まるで自分が経験してきたことを話すようにオーガストさんは雄弁に話してくれた。


「オーガストさんあなたはもしかして、昔悠然としている立場の人だったりしたんですか?」

「いえ、私は一般の警備兵として働いていました。ですが足を怪我したことでその職も失い、生まれのこの街に戻ってきました。私の雇い主はあなたのような優しい考えは持っていませんでした。それでも毅然として主として立つ姿は皆の信頼の的でもありました。だからあなたにはその両方を兼ね備えた人物になってほしい」


 その言葉でオーガストさんは一息溜めた。その後の言葉を言うことに決心するための時間を作るかのように。


「だから、私の息子を助けてほしい。無茶をしないように。死なないように。将来立派な近衛騎士になるように助けて頂けないでしょうか。こんな願いを貴方様にすべきでない事は分かっています。無礼を承知でお願いしたい」


 『助けて』その言葉は私としても望むところだ。だから私はそのための手段を今この場で作るためにアルを説得するしかないんだ。

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