君が離れない夏に
藤咲 沙久
探すのは、黄色い浴衣
──また会おな!
こちらに向けて手を振る眩しい笑顔。当てのない約束を口にしたあの子とは、もう何年顔を合わせてないだろうか。偶然のような出会いを果たした俺たちに偶然の再会が訪れることもなく、またこの季節がやってきた。
湿度、温度、人の熱気で蒸し暑い夏の夜。三日間続いたこの小さな夏祭りも、今日で最終日だ。金魚すくいにかき氷、子供のころ大喜びで見て回ったような屋台が今年も数多く並んでいる。今嬉しそうに俺のすぐ横を走って行った少年も、背伸びをしながら商品に笑いかけるのだろう。
ヨーヨー屋の傍にある木陰の岩は、案外ひんやりとしていた。腰かけて辺りを眺めてみるが、色とりどり並ぶ浴衣の中に
「
「俺コーラがいいって言ったろー」
駆け寄ってきた永太の足元からは、声にも負けない大きさでペタペタとサンダルが鳴っている。目の前までくると、彼は元々細い目をさらに細めて笑った。
「コーラは無かった! 文句あんならコレとおつりはオレのもんにすんぞ」
「あ、ウソウソごめんって。それちょーだい、ついでにつりはちゃんと返せ」
「しゃーねぇなぁ」
鮮やか過ぎるほどの水色に染まったフロートを受けとると、永太も座れるように少し横にずれてやった。並んでみれば俺たちの体格はあまりに違い、いつものことながら複雑な気持ちになる。
もう大学生になったというのに、俺の身長は亜純と会った数年前からたいして変わっていない。それに対して永太はがっしりとした肩幅がやたらと目立つくらいだ。俺たちが同級生に見えるかどうか、あやしいのではないかとさえ思う。
逆に亜純が俺のことを見たら、すぐに気づくのかもしれない。
「アイツが俺のこと覚えてたらだけど……」
思わず口に出してからハッとする。ちらりと左側を見れば興味津々な様子の永太としっかり目が合った。今さら逸らしたところで逃げられるはずもないほど、それはもうしっかりと、視線が絡んだ。
「なあ佑規。お前毎っ年この祭りに通ってるよな」
「……そうだっけな」
「そのくせ特に何をするでもなくヒマそうだよな」
「……どうだっけな」
適当な言い訳ができない口下手さが我ながら恨めしい。永太はストローで氷をかき混ぜながらニッと八重歯を見せた。
「なんか目的あんだろ。そのアイツちゃんに会いたいとか? 青春か、青春しちゃってるのか~?」
深いため息は肯定にしかならず、俺は嫌々ながら高校生の自分に起こった出来事を話す羽目になった。
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