異世界生活4―Ⅰ


 ――AM9:00――



 今日も朝から家周りの草刈りをして、屋根に掛かる枝葉を払っていった。草刈りの範囲は、今後も徐々に広げていくことにして、気になる点がまたひとつ増えた。


「地面が紫色してる………」


 日が射すと言っても時間は限られていた。だから、少しばかり草刈りの範囲を広げて枝葉がより拓けたことで明らかになったのが、地面が紫色だと言うこと。

 全部じゃない。だけど、茶色の土の上に紫の絵の具でも落としたような感じで、濃緑と赤茶に染まるの苔のようなものまで生えていた。


「毒々しい………」


 RPGで良く見かける、毒エリアを彷彿とさせ、何ならうっすらと紫の霧がたっている感じだった。


 今、私が草刈りを進めているのは、台所裏になる。目的は、井戸を探すこと。今後、レティシアさんが回復したら、お風呂だって用意しなきゃいけないし、自炊するならやっぱり水は重要よね。


 そんなわけで、伸びに延びきった黒い瘴気草と瘴気木の枝葉を払いまくっていた。そうして差し込める日差しに照らされた地面は、上記の様な様相をしていたわけで………。


「これも、瘴気の影響なの………?」


 今、この場で答えを与えてくれる人は誰もいない。だけど、それなら大地も草木も空気も、瘴気に汚染されているって事よね?


 ライフはレティシアさんは、『聖女』なのだと言っていた。

 だけどその力は奪われ、その立ち位置も奪われている。


 その、レティシアさんから力を奪った人は何をしているんだろう?

 いくら森の中が瘴気が溜まりやすいとか言っても、これは異常じゃ無いの?


 この世界の知識の無い真理にとっては、諸々疑問だらけになった。



「おや、随分と刈り進めましたね。地面がありますね~」


 何も無い空間から突如として現れるのは、この世界への通行券を与えてくれた異世界の魔族ライフさん。


「ライフさん、こんにちは。そうね、大分日射しも入っては来ているけど、この地面はなに?物凄く毒々しい色をしてるけど」


「これですか?大地が瘴気に侵されている証ですね。それも早急に解消しないと不味いレベルですね~」


「どうしたら良いですか?瘴気を祓うとか、浄化とか私には全く理解できないことなんですけど………」


「それなら………」


 何かを言いかけて、ライフは動きを止めた。トコトコ家の方に歩みだし、軒下を覗き込む。

 あそこには昨日、木炭を放り込んだんだっけ?


「これはどうしたことです?」

「何がですか?」

「家の下だけ、瘴気が完全に消えています」

「ええっ!?」

「真理様、何かしましたか?」

「えっと……昨日、私の世界の木炭を下に放り込みました。湿気取りになるかなって。ザァッーって、何か黒いのが逃げていきましたけど………」

「黒いの……?」

「何かの影の塊みたいな、気味の悪い感じのです」


 そう答えると、ライフはより床下の空間を注視し、はっと何かに気付くとくいっと右の指先で床下の地面から何かを引き寄せた。


 割れた石だった。黒いタール色の楕円の石で真ん中に何かの紋様が掘られている。


 何となく、嫌な気配のする割れた石。

「何ですか?それ……」

 思わず聞いてしまう。

「呪い。呪いの込められた石ですね。何のまではこの場では分かりかねますので、こちらは私が引き取らせて頂いても宜しいですか?」


「構いませんよ。そんな不気味なの、置いていかれても困りますし」


 ライフは、割れた石をハンカチに包み懐に仕舞うと再び床下を覗き込み、何かを考察したのか立ち上がり振り返ったライフはこう告げた。


「真理様。もしかしたら…これは仮説ですけど、真理様の世界の物がこの世界では聖なる神器レベルの物だったりしませんか?」


 へっ!?そんなまさか!!?

 あ……でも。だから軍手で草がシュワワって、乾燥して鎌で刈ると消えちゃうのかな!?


「え……じゃあ、家の中の掃除で起きる現象もですか?あ、蝋燭!あれも色がおかしかった!!普通ならオレンジとか赤なのに、白く燃えるんです!!」

「白い炎……聖なる火、聖火ですね。と、なるとこれは……益々面白くなり始めましたね」


 ライフが一人含み笑いを浮かべた。

 だけど真理には、ライフが何を指して面白くなってきたのかは、わからなかった。


「もしかして、真理様の世界には神様が沢山おられるのではないですか?」


「え……?あぁー」

 そう言えば、そうよね。日本なら八百万の神とか言うし、ギリシャ神話に北欧神話、イスラム教やらヒンドゥー教やら…。数えたらキリが無さそうなぐらい、神様の名前が有る。


「そうですね。名前も知らない方のほうが遥かに多いですが、沢山いますね」


「そうでしょう。神が多いほど加護が付きやすく、何でもないものにまでそれらが波及するのだと、聞いたことが有ります。特に格下の世界に持ち込むほど、その効果は目に見えて現れるとか……」

「それならもしかしたら、地面を浄化する効果の有るものも、存在するかもしれないって事ですか?」


 にっこり笑ってライフは、「そうかもしれませんね」と、答えた。


「本来なら、瘴気の浄化は聖女や聖者の役割です。しかしながら、本来なら聖女であるレティシア様は、その役割を果たせないぐらい弱っている。レティシア様の力を奪った方も、瘴気を浄化するつもりは無さそうですから、困りましたね~」


「なら、急いで探してくるわ。地面の浄化……消毒的な考えで良いのかな?」

「その様な捉え方で、大丈夫だと思いますよ」


 ならばと、元の世界に帰り早速検索をする事にしよう。




 ――PM12:15――


【検索:土壌改良】


 ・コンクリート、石灰○○建材株式会社

 画面には、コンクリートの壁に覆われた土山の様な景色の写真が。


 電話番号○○○-△△△△-××××



 ん~。異世界の土壌浄化に、建築業者さんを招く?


 ナイナイ!無しだわ!!これは違うよね?



 ・最短5日でお届け。5980円~。


 う~ん。これはなんだろ?サイト開けて見る?でも、最短5日だよ?そんなに待ってられないから。これもパス!!




 ・土壌改良には、牛糞・石灰。


 え~と、なになに?牛糞は、そのままでは土壌改善に効果は発揮しません。ウッドチップを混ぜ発酵させたものを使用します。発酵すれば、ホームセンターで売っている牛糞堆肥になります。


 化成肥料の酷使で硬く締まった土壌改良に効果あり………?


 う~ん。ちょっと違うかな。


 石灰は、酸性土壌の改善に効果を発揮します。用途に応じてHP値を調整してください。


 酸性ねぇ~。瘴気って、酸性?それともアルカリ性?どっちなんだろう………。


 あ、でも。後々、自給自足で畑とかするならこれは必須だよね。


 後々は、異世界あっちで調達するにしても、当面はこっちからの持ち込みだよなー。

 それなら、石灰が一番近いのかしら?


 なら、ものは試しだ。石灰を買って撒いてみよう。ついでに、後々必要になる農具も購入しよう。



 一体、異世界との行ったり来たりで何度目のご来店かしら?

 ここ最近は、ホームセンター《ここ》でそこそこ景気の良い買い物してるよね。


 太客ご来店~♪何てね。


 さて、本日ホームセンターで購入した品目は、粒状石灰10㎏、牛糞堆30L、鶏糞10㎏、化成肥料10㎏、スコップ、鍬、レーキ、ジョウロ、野菜の種子が数種類。


 ジャガイモとか直ぐに植え込むものは、外回りの進捗を見ながら少しずつよね。


 何気に、自給自足で生きようと思うと、その前段階からして時間が掛かるのね。ああ、先は永いなー。夢の異世界異住生活。飛ばされて、はい、今日からここで暮らしてください!何て言われてたら間違いなく餓死してるわ。





 ―PM15:00―


 お昼は、コンビニで軽く済ませレティシアさんの食事も済ませて、再び裏庭。


 まだ、こちらの世界に残っていたライフさんの立ち会いの元、ホームセンターで購入してきた石灰のお試し散布です。


「じゃあ、試してみますね」

「はい。しっかり見分させてもらいますよ」


 袋を切り、軍手をはめた手でもって一掴み。


 パッと撒いた灰色の粒々達は、地面につくと同時に淡い白銀の光を放つ。ジュッと音を立てて、紫の大地が足掻くようなのたうつようなうねりを見せる。

 白銀の光に紫の淀んだ煙は、絡み付くようにその末尾を伸ばすが、触れたとたんに煙のように霧散を繰り返して消えた。


「お見事です!!」

 すかさずライフが称賛の声を上げる。

(石灰がね。私に言われても困るんだよね。私、撒いただけだし)


「それにしても、石灰で浄化が出来る何て、優秀なのね」


 ガサリ。ライフが袋の中の石灰に手を突っ込み粒々した灰色の石灰をしげしげと眺める。

「これが異世界の土壌浄化薬ですか。中々に興味深いものですね。まぁ、流石に魔族までは浄化対象では無いようですね。その辺りはひと安心です」


 とか言って、石灰を一掴み分持って、エターナルハインドへと帰って行った。








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