異世界生活1―Ⅱ
先ずは、レティシア(ミイラ)さんの上に、これ以上埃が積もらないように、比較的綺麗だった布を被せた。
次に、天井を箒でサアーッとなぞっていき、天井に張り付いたり、ぶら下がっている埃のカーテンや蜘蛛の巣を取り払っていく。
『何するんだ!?』って、赤い目を光らせた五センチ位の黒い蜘蛛がカサカサと何処かへ逃げていった。
他の部屋にでも引っ越したのかな?
お陰で、床の絨毯や机、鏡台等に埃が大分落ちたみたい。そして、天井が色を取り戻したかのように、白くなっていた。
あれ?何で??
ついで、棚上の埃をちょいちょいと掻いてスタンバイしていた塵取りに放り込んでいく。
高いとこ攻めである。
埃を回収したら、ごみ袋にカサカサと小気味の良い音を立てながら溜まりに溜まった埃が落下していく。
お次は、棚上の雑巾掛けだ。ギュッと堅絞りにした雑巾で棚を拭いていく。それだけでもあら不思議。棚上は面白いほど光沢の有る、焦げ茶の光沢を取り戻していた。
「これ、もっと明るければ落ちるの見てても楽しいだろうな」
一度転移すると、次に鏡が転移の力を発揮するまで、約二時間。元の世界に戻れるまで残り一時間以上も有る。帰るときににこの燭台を持って帰って、向こうで洗って持って来ようかな?
あ、あとは、蝋燭を持って来よう。ホームセンターでクイックルワ○イパーの替えと床クリーナーも買ってこないとな……。
何て、考えながら棚と鏡台を拭き終えた所で二時間が経過していた。
レティシアさんの部屋の燭台を回収し、ごみ袋の予備に放り込んでいく。バケツと汚れた雑巾、燭台入りの袋を持って、一度自室の転移用鏡から元の世界に一度帰った。
―――PM13:00
気持ち悪いくらい埃だらけの部屋に居たわけで、頭とか皮膚とか痒い気がしてならない。シャワーを浴びて着替えた所で持ち帰った燭台をぬるま湯に浸けて汚れをうるかす。
その間に、近くのホームセンターで蝋燭とクイックルワ○イパーの詰め替えと床クリーナー(ワックス入り)を購入して帰宅した。
落ち着いたら、
大学卒業から働きはじめて、約四年。四年分のなけなしの貯金と、退職金、両親の遺産が四百万ぐらい。
帰りにコンビニでお弁当とお茶を購入。
レティシアさんのお昼は、さっきのタッパー粥を暖め直して持参で平気ね。何せ、一口にも至って無いからね。彼女の朝御飯。
お弁当を食べて、身支度を整えて燭台を洗う。面白いぐらい汚れは落ちるものであっという間にピカピカの金色を取り戻していた。
くすんで茶色っぽかったけど、こう言うのってやっぱり金色なんだね。
やっぱりあれかな?本物の金……金メッキか何かよね?
燭台は、結局。レティシアさんの部屋から私の部屋までの目についた分を回収してきた。全部で十三個有る。
全部を洗い終えるのに、一時間以上かかってしまった。慌ててそれらと暖め直したレティシアさんのお粥と購入した物を持って鏡の前へ。
―――PM15:35
(そうだ、異世界に行こう!!)
ピカアァァ!!
燭台や何やらの設置は後回しで、先ずはレティシアさんのお昼だわ!
「遅くなってごめんなさい!お昼ごはん、朝と同じだけど食べられるかな??」
慌てて駆け込んだ私に、鏡の中のレティシアさんは、にこりと微笑む。
『はい。大丈夫です。少しですが、朝よりも体調が良いみたいで、もう少し食べられそうな気がするんです』
良かった。食欲が湧いたって事なのかな?
早速、ベッドの上のレティシア(ミイラ)さんの口にそっとお粥を流し込む。
……………………コクン。
嚥下するまでの時間が朝よりも短かった。そして、確かに飲み込めていたようで安心した。
「良かった。まだ、食べられるよね?」
『はい。まだ食べられます』
レティシアの本体は、ベッドの上のこのミイラ。これでは話すことも儘ならないから、全ては鏡の中のレティシアさんとのやり取りになる。
二匙目をレティシアさんの口に運び、半開きの口の中へ。
…………………コクン。
こちらも一匙目と同じくらいの時間をかけて飲み込んだ。
「お水も飲めるかな?お粥も水分は豊富だけど、水分も同じぐらい大切だもんね」
『はい。お願いします』
タンブラーを直では、多分口の中に入れすぎになるから、こちらもスプーンに移して流し入れた。
………………コクン。
お粥とお水とを交互にレティシアさんの口へ流し入れる。これを何回か繰り返した。
『もう、飲み込めません。疲れてしまいました。暫く眠らせてください』
レティシアさんの限界が来たみたいだけど、朝よりもかなり食べられたと思う。お椀一杯分のタッパー粥を四分の一は食べきったから。
レティシアさんの食事の後、持ち帰った燭台の受けを拭きながら設置していく。するとどうだろう?不思議なほどに真っ暗な部屋の中、そこだけ輝いた見えるのは。
その間に蝋燭に火を灯す。白く眩い光が煌々と揺らめく。
あれ?普通、蝋燭ってオレンジの火じゃ無かったっけ?
何故だか蝋燭の火の色が発光した白っぽい色なんだけど…………。
まぁ、良いのかな?ここは異世界なんだし、地球とは常識が違うのかもしれないよね?
オレンジの蝋燭の光も暖かみがあって良いけど、今は明るさを追求したいところだし。その辺は深く考えないでおこう。
レティシアさんの部屋に蝋燭を設置、灯りを灯せばL.E.D.照明に照らされた部屋のように明るくなった。
ああ、良いわ。
明るいって良いよね~(しみじみ)。
視界が良くなったことで分かること。床にしろ壁にしろ埃だけじゃない黒さがある。そして何より、窓の外が物凄く暗い。夜の暗さ以上に真っ黒なんだもの。
(なんなのこれ……)
「順調に進んでいますか~?」
「わああぁぁっ!!!」ドスンッ!!
突然の頭上からの声に驚かない訳が無く、叫ぶと同時にひっくり返って尻餅をついた。
見上げれば、天井付近に開いた真っ黒な空間から顔を覗かすライフさんの顔が。
「お、驚かさないでくださいよ!!めっちゃ恐いんですけど、あらぬ方向から声掛けられるのって!!」
「あはははっ。驚きました?あらぬ方向…そう言えば、そうですねぇ~」
猛烈な真理の抗議に対してライフは、呑気なものである。
トスンッ。
天井付近のぽっかりと開いた虚空から出て来たライフは、軽やかに着地をした。
「それで、そろそろご不明な点でも無いかと思って様子を見に来たんですけど、問題は有りませんか?」
ご不明な点……そんなもの、無いわけがないでしょ?今のところ、ご不明な点だらけが湧いて出てきてますよ!!
「有りますよ~。有り過ぎるぐらいに」
真理は今、ライフを抗議の意思をふんだんに含ませたジト目で見詰めていた。
「具体的には、どの当たりですかね?」
真理の視線など、もろともせずしれっと聞き返してくる辺り、やはり魔族だと言うことなのだろう。
「先ず、外よ。時間は私のいた世界に合わせているって言ったじゃない。それなのに何で外が真っ暗なの?それに、換気しようにも窓も開かないし……」
「ああ、それですか。それはですね、玄関を朝開けましたでしょ?その時に黒っぽい植物が有ったでしょう。アレとかのせいなんです」
「植物の?……戸が開かないのはこっち側にも植物が有るって言うの?」
「はい。その通りです。あの植物は、瘴気の中で育って、瘴気を吐き出す厄介な植物でしてね。本当はこの世界に有る筈が無いんですけどねぇ~。何の手違いやら……。暗いのは、あの植物と吐き出された瘴気のせいですね!」
えっ?えっ?えっ?えええええっ!?
「えっ……と。じゃあ、この家かなり危ないんじゃない?(だって、瘴気でしょ?聖女様には付き物の……それが、家を取り囲んでるとか……)」
「そうですねぇ~。何もしなければ持って後二日と言った所ですかね?」
「嘘おおおぉぉっ!!!?」
「嘘じゃ有りませんよ。ですから、明日辺りから外の瘴気草の草刈りなんかもしなくちゃなりませんよ~」
にこにことライフのキラキラ貴公子スマイルが炸裂しているけれど、そんなものに当てられている場合じゃないのよ!!
のんびり家の中の掃除ばかりもしてられないのね。まぁ、このままじゃどのみち窓も開けられないって事なんだけど……。
あぁ、帰ったらまたホームセンターに行かなくちゃ。明日は朝から外回りの瘴気草の草刈りしなくちゃ、家があの植物に潰されるかも知れないのね。
やや意気消沈気味で、レティシアさんの部屋の床を掃きクイックルワ○イパーで拭き上げていった。すると床は瞬く間に黒ずみが落ち、明るい色あいのチャコール色を取り戻していった。
ベッド脇のラグとソファカバーは洗濯機で丸洗いできそうな大きさの為、帰りに持ち帰るとして、細々した所は再び雑巾掛けを敢行。
「これってよく落ちるけど、水替えが出来ないのが難点よねぇ」
雑巾掛して洗いながら文句を言うと、ライフがまた何か言い出してきた。
「水と汚れを分離すれば良いんですよ。そうすれば、バケツの水が空になるまでは続けられますよ?あ、因みにこれは水魔法の応用ですね」
はい?何ですと!!?今、魔法って言いました!?
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