第6話

「閲覧者の皆さんから、コメントで諸々のご指摘を頂いたので、そろそろ私の自己紹介もしようかと思います。今から準備しますので、少々お待ちくださいね。私の自己紹介中もコメント機能は使えますので、コメント残したい人は存分に残してください。ただ、投稿した人は自分の個人情報が私たちに筒抜けになることは頭の片隅に置いてください。」


俺はマイクを切ると先ほどまで高田大臣が監禁されていた部屋に移動した。


「今から俺が顔を晒して、殺人者としての自己紹介を配信します。そこで、コメント欄に俺に対する誹謗中傷があまり無かったら、あの約束を守って頂きますよ。もし、約束を破るようなことがあれば、あなたが墓場まで持っていきたい秘密を国民にバラしますからね。」

「あぁ、分かってる。私としても、匿名の仮面を剥がされた状態で、今最も人々の怒りをぶつけたい君に対して誹謗中傷に溢れかえられても困るんでね。」

「正義感にかこつけて、私を糾弾するような連中はいるでしょうが、『死ね』といった暴言を吐くような人はいないと思いますよ。では、どちらに転ぶのかを試しに行って来ます。」

そう言うと、俺はテレビカメラの前に立った。


サイトの画面がまた切り替わり、俺のワンショットが写し出された。


「大変、お待たせしました。今回の企画を考え実行してきた運営者の鈴木太一です。今頃、ネット上では私の身辺を必死に調べている連中もいるでしょう。そんな正義感を盾に自分の行いは正しいと勘違いしているバカ共に悲報です。俺の過去をどれだけ調べても何も出てこないですよ。名前も変え、顔も変え、声も変えている為、今と昔の俺を紐づけるものが何一つありませんから。さて、今のコメント欄はどんな感じですかね。」


そう言うと俺はスマホを取り出し、コメント欄を見始めた。


「殺人者がこうやって現れたら、先ほどの高田大臣の時のように『殺せ』であったり『自殺しろ』といったコメントが溢れかえると思っていましたが、匿名の特権を剥がされ、刑事訴訟がされる可能性があると分かるだけで、こんなにも誹謗中傷が減るんですね。自分の身の危険を感じるだけで、理性が先立ち暴挙に走らない人間が多い事は、とても良い傾向ですね。」


俺は閲覧者を煽る発言をあえてしてみたもののコメント欄は、『自首しろ』や『警察は何やっているんだ』といったコメントだけで誹謗中傷の類はほぼ見られなかった。


「この企画も飽きてきましたし俺の目的も達成できたので、そろそろ配信を終わろうと思います。明日のワイドショーに政治家の人たちの発言などなど面白いことが起こることを願っております。なお、今日の配信に対して誹謗中傷をした人たちは24時間365日閲覧できるように、このサイトはずっと閉鎖せずに残しておきますので、興味がある人は閲覧ください。また、このサイトで知り得た情報をSNSなどで拡散し、ネット上に晒そうが何をしようが皆さんの意思にお任せします。それに対して、訴えられたとしても私は一切、関知しませんので、そのつもりで一人一人が責任を持って行動してください。では、また。」


俺の配信映像を切れると再び、誹謗中傷していた人物たちの情報がただただ流されている画面へと切り替わった。

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