船
藤村 「わかってるさ。自分が間違ってるってことも。でもしかたない。俺はこうするしかない。一度復讐という船に乗ってしまったら、もう降りられないんだ」
吉川 「藤村……」
藤村 「すまないな。俺のことは忘れてくれ。お前は真っ直ぐに生きればいい」
吉川 「だけど! たとえ復讐を果たしたとしてもお前の人生は続くんだぞ?」
藤村 「そうさ。そのあとはそうだな。償いという列車に乗って人生を生きるさ」
吉川 「だったら今やめればいいじゃないか!」
藤村 「わかってくれなくていい。でも途中下車はできない。そのあとは後悔というバスに乗ってどこまでも行くよ」
吉川 「バスに?」
藤村 「あぁ。後悔というバスに揺られていく」
吉川 「後悔はバスなの? バスは途中下車できそうじゃない?」
藤村 「本数が少ないから下手に降りるとどうにもならなくなってしまうだろ」
吉川 「そんな田舎のバスなんだ。後悔は」
藤村 「行き着く先は孤独だからな。誰も俺を許さず、俺も俺を許さない。そんな果てにたどり着くのさ」
吉川 「そんな思いが……。ちょっと田舎に失礼な気もするけど」
藤村 「お前はお前で、希望という自転車に乗ってどこまでも行けよ」
吉川 「自転車? 俺は自転車なの? そっちは公共交通機関なのに」
藤村 「駅まで自転車で、そのあとに電車に乗ればいいだろ。山手という線に乗って」
吉川 「山手線なの!? かなり具体的に路線の名前が出てきたな。なに、山手って? 人生における山手ってなに?」
藤村 「人生は山あり谷ありだから」
吉川 「山あり谷ありを味わうために山手線に乗るの? そういうものじゃなくない? そっちは償いという列車なのに、こっちは山手線?」
藤村 「ダメだよ。お前はこっちに来ては」
吉川 「行けないよ。どの道、山手線と償いという列車は連絡してないでしょ。乗り換えとかできないもん」
藤村 「そうだな。お前はそのまま真っすぐ、東武という東上線に乗ればいいさ」
吉川 「あ、俺は乗り換えるの? 池袋で? なんか人生のこと言ってるんじゃなくて、ただ待ち合わせとかを言ってる?」
藤村 「別に俺の言ったとおりに生きなくてもいいさ。人生と深く向き合いたいなら大江戸という線に乗るのもいいだろ」
吉川 「深いからな。大江戸線は。すごい地下だから。人生に深くっていう意味で深いわけじゃないだろうけど」
藤村 「どんな道を選ぼうと、お前ならいつかはたどり着くさ」
吉川 「たどり着ける? 大江戸線とか東武東上線で? 人生の終着点みたいなところに?」
藤村 「お前の人生だ。きっと光に溢れてるだろうよ」
吉川 「そんな。俺はそんな素晴らしい人間じゃないよ! 俺だって人を羨むことがあるし復讐をしたいと思ったことだってある。お前と一緒だよ。だからお前もこっちに来いよ!」
藤村 「いいや、俺は行けない。お前は他の多くの友人達と行くんだ。その、光が丘に」
吉川 「あ、具体的な地名? 今何の話してるの!?」
暗転
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