見える人

藤村 「お前よくあの人と話せたな」


吉川 「なにが?」


藤村 「ヤバいよあの人。何人も憑いてる」


吉川 「え、霊みたいなもの?」


藤村 「うん。引き寄せるタイプなんだろうね。俺は近くにいただけで具合悪くなってきたよ」


吉川 「本当? 俺そういうの全然わからないから。どんな霊?」


藤村 「どんな? 特徴というか着てる服が古いし、戦争でなくなった人たちかな」


吉川 「あー、じゃああの人自体がどうにかしたってわけじゃないんだ?」


藤村 「そうだと思う。多分霊の方も落ち着くから憑いちゃってるって感じで」


吉川 「そういうのがあるんだ? じゃあもう霊がついてるから悪いとかそういうことじゃない?」


藤村 「いや、そうとも限らない。あの人がヒトラーみたいな人かも知れないし」


吉川 「そんなことある!? 戦争で死んだ人の恨みが? そのパターンもあるんだ」


藤村 「女の人がついてるのはそういう人が多い」


吉川 「あー、女性にひどいことをしたとか?」


藤村 「それか高級ブランド身につけてるとか」


吉川 「え、それで引き寄せちゃうの?」


藤村 「女の人だからね。港区女子の霊とか」


吉川 「港区女子ってそんなカブトムシみたいな習性あるの?」


藤村 「まぁ、カブトムシは樹液とか甘い匂いがあれば別け隔てなく寄ってくるからな。えり好みする港区女子よりマシだろ」


吉川 「さらっと港区女子をカブトムシ以下みたいに定めたな」


藤村 「うわっ! あの人は流石にわかるだろ。ほら、すごい憑いてる」


吉川 「え、あの眼鏡の人? そうなんだ」


藤村 「ビビるわ。あ、あんまり見ない方がいい」


吉川 「どんなのが憑いてるの?」


藤村 「ロボだな」


吉川 「ロボ!? ロボット? ロボットの霊ってこと?」


藤村 「やばい、見てなくてもレーダーで補足される。ちょっと離れよう」


吉川 「ロボに霊って概念あるの?」


藤村 「そりゃあるだろ。ロボ差別か?」


吉川 「いや、まだそういう時代が来るのは先だと思ってたから。ほら、攻殻機動隊でもゴーストは人間にしかないみたいな」


藤村 「付喪神だっているんだからロボにだって魂宿る時はあるよ」


吉川 「それがあの人に憑いちゃってるの?」


藤村 「最新ガジェットに詳しそうだしな」


吉川 「それで引き寄せちゃったんだ。ロボの霊を。そんなにいるんだ、ロボ」


藤村 「見てみろ、そこなんかビッシリ憑いてる」


吉川 「え、どの人?」


藤村 「ほら、あそこのくまモンのイベントやってるところ」


吉川 「くまモンだよ、それは! そりゃ人集まるよ」


藤村 「だろ。ビッシリ」


吉川 「生きてる人だろ、みんな」


藤村 「くまモンが引き寄せてる」


吉川 「それはもう霊とかじゃないだろ。ただ人気なだけだよ!」


藤村 「あの人はお坊さんかな?」


吉川 「お坊さん? それは色々憑いてそうな気がする」


藤村 「ほら、ハゲの霊がいっぱい憑いてる」


吉川 「別にハゲがいっぱい憑いてるからお坊さんてことはないだろ。ハゲにそんな習性はないよ」


藤村 「引き寄せ合うのかなと思って」


吉川 「ハゲをスタンド使いみたいに言うなよ。ハゲ同士の間にいると安らぐなって思ってるハゲはいないよ! むしろどっちかというと避けたいだろ」


藤村 「あの人iPhone使ってるのかな? スティーブ・ジョブズみたいな霊が憑いてる」


吉川 「憑かないだろ、そのくらいじゃ! 世界中にどれだけ利用者がいると思ってるんだよ。ジョブズの死後が忙しすぎるよ。選ばれしiPhoneユーザーじゃないんだよ!」


藤村 「そっか、スティーブ・ジョブズっぽいただの質素なおじさんの霊か」


吉川 「スティーブ・ジョブズ自体が見た目はただの質素なおじさんっぽいからだろ。ただの質素なおじさんはただの質素なおじさんなだけで、別にスティーブ・ジョブズを目指してそうしてるわけじゃないんだよ。亡くなったあとまで弄くるなよ!」


藤村 「あとさっきから気になってたんだけど、お前にもビッシリついてるぞ。ほら背中」


吉川 「え? 嘘!? 霊? どんなの?」


藤村 「カブトムシ」


吉川 「樹液出してねぇよ!」



暗転






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