万引き

藤村 「いいですか? 万引きは立派な犯罪なんですよ?」


吉川 「はい、すみません」


藤村 「世の中にはもっと立派な犯罪もあるのに、なんで万引きなんてしたんですか?」


吉川 「もっと立派な? あんまりそういう言い方しなくないですか」


藤村 「どうせならデカいヤマを踏んだ方がいいじゃないですか」


吉川 「ルパンみたいな言い方」


藤村 「ケチな万引きなんかで捕まって人生を棒に振るなんてバカバカしいとは思わないんですか?」


吉川 「確かに、面目もありません」


藤村 「人間、捕まるならどデカい仕事で捕まるべきなんですよ」


吉川 「ちょっとお叱りの方向性がおかしくないですか?」


藤村 「どうして万引きなんてしたんですか!?」


吉川 「魔が差したとしか……」


藤村 「そこでもう一差しいけますかね?」


吉川 「いけますかね? どんな問いかけなの?」


藤村 「近い内に大きな取引があるらしいんですよ。それに一枚噛みませんか?」


吉川 「どういう流れ? これ、万引きで捕まって怒られてるんじゃないの?」


藤村 「返答次第では、この万引きをなかったことにしてやってもいいです」


吉川 「すごい怖い感じの取引持ちかけられてる」


藤村 「吉川さんね。まぁ、万引きのヨシでいいでしょう」


吉川 「二つ名も付けられてる。かなり不名誉な感じの」


藤村 「今決まってる面子ですと、無差別殺人のカズ」


吉川 「無差別殺人の!? そんなことをしてる人いるの?」


藤村 「あと、国家転覆のチーボー。武器商人王のコウキです」


吉川 「スケールがデカい! 大犯罪人だらけ。反社のアベンジャーズじゃん」


藤村 「そこに万引きのヨシが入ればもう隙はないと思うんです」


吉川 「俺いる!? 万引きの雑魚感すごくない? そのメンバーで万引きが有効な仕事をできるとは思えないんだけど」


藤村 「チームのマスコットキャラ的な感じで」


吉川 「余計にいる!? 犯罪チームにマスコットキャラ。しかも俺のこのままの姿で?」


藤村 「あと申し遅れましたが、私が司令塔であるスーパーの店長のトウです」


吉川 「司令塔のスケールがちょっとホッとするけども。逆になんか普段一般人として潜伏できてる有能さを感じて怖い」


藤村 「あなたがザーサイを手に取った時から、こいつだとピンときました」


吉川 「ザーサイで? 確かに万引きして申し訳ないけども。そこでピンと来ます? 犯罪組織に必要だって?」


藤村 「こいつさえいれば完璧なチームが完成する、そう確信しました」


吉川 「それはもうこっちがピンと来ない。何の役割ができるの? 万引きで、しかも捕まるようなやつに」


藤村 「不服ですか?」


吉川 「いや、格が違いすぎるでしょ。その人達とは」


藤村 「なぁに。犯罪者っていう意味では一緒ですよ」


吉川 「一緒にしないでよ! やっておいてなんだけど、一緒ではないでしょ? 量刑としても。万引きと無差別殺人をイーブンで受け止めないでよ」


藤村 「被害者にとって取り返しのつかない痛みを与えられたという事実は変わらないんですよ」


吉川 「そうかも知れないけど。そう言われちゃうと何も言えないけど」


藤村 「まぁ、うちの場合は商品は戻ってきたけども」


吉川 「ですよね? これ。すみませんでした」


藤村 「でも受けた傷は癒えない!」


吉川 「それはごめんなさいだけども! 私が言えることではないけど、殺人とかもうちょっと違うんじゃないですか?」


藤村 「それ殺された遺族とかに向かって言えます? ザーサイよりも悲しいですかって」


吉川 「それは言えないよ。ザーサイと比べちゃ悪いもの。比べちゃダメなんだよ」


藤村 「そうです。罪は比べられるようなものじゃない。武器商人として何千万人殺してても、万引きと一緒」


吉川 「それは違うと思うなー! 自分でいうとあれだけど、やっぱり違うと思うんだよ」


藤村 「ひょっとして二つ名が不服なんですか? 万引き以外のものがいい?」


吉川 「そういう問題でもない気はするけど、釣り合うような名前だったらまだわかるかなって」


藤村 「では捨て石のヨシでどうです?」


吉川 「あ、そういう役割で誘われてたんだ」



暗転

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