成長

藤村 「でも逆に考えれば、それって成長するチャンスですよね」


吉川 「あぁ。そういう風に思えたらいいですけど」


藤村 「思いましょうよ! 人生に無駄なことなんてないんです。何だって糧にできる。そうした者が最後に笑うんですよ」


吉川 「そういうものですか。あれ、ペンがないな。せっかくメモしようと思ったのに」


藤村 「ペンがない! それも成長のチャンスですよ!」


吉川 「ペンがないのも?」


藤村 「その逆境を活かせれば成長につながるんですよ。今日はペンを忘れてラッキーだったな、という気持ちで終えましょう」


吉川 「ならないと思うんですが。普通に困るだけで。どう成長につなげるんですか?」


藤村 「例えば記憶力を鍛えられたな、とか」


吉川 「覚えられる程度ならいいんですが、メモが必要ってレベルだと無理なんじゃないですか? だからこそメモを取ろうとするわけで」


藤村 「私も以前ペンを忘れて困ったことがありました。でもそれこそチャンスだなと思って。爪で思い切り皮膚に跡をつけて残したんです。今思うと帰りにタトゥを入れてれれば良かったなとも思いました」


吉川 「タトゥで!? メモを? ちょっとしたメモをタトゥで入れることある?」


藤村 「それが成長のためなら迷うことないですよ!」


吉川 「それで成長してます? そんなことまでして成長ってしなきゃいけないんですか?」


藤村 「はぁ? 成長を疑うんですか? 生物っていうのは成長こそ全てでしょうが! 植物だって動物だって、成長してるんですよ! 成長しないなら無機物と一緒です」


吉川 「でも植物や動物は、そんな成長を意識してやってるわけじゃないでしょ」


藤村 「それだけ人間は成長できるってことじゃないですか。成長できるってのはもう喜びなわけですよ。他に何もいらないくらい」


吉川 「なんでもかんでも成長なんて言わないで、たまにのんびりする時間も人生には必要じゃないですかね」


藤村 「そうです。たまにのんびりすることで新たな成長への活力になる!」


吉川 「いや、だって無駄なことだってあるじゃないですか。生きてれば理不尽なことだってありますよ。病気だって事故だって」


藤村 「それも! それも成長! そういう逆境こそチャンス!」


吉川 「じゃあ今までで一番成長につながったことってなんですか?」


藤村 「……そうですね。急に言われると」


吉川 「たいして成長してないんじゃないですか?」


藤村 「そんなことないです! 成長しっぱなしですよ! 大事な取引の時に寝坊して遅刻した時なんて成長しましたね!」


吉川 「意外とつまらないエピソード。もっとユニークな成長かと思ったら、割と誰でもありがちな」


藤村 「違います! 今のはジャブの成長。本当の成長はあれです。牡蠣! 牡蠣にあたった時はもう成長しっぱなしでした」


吉川 「牡蠣にあたって成長しっぱなしって。成長ってそんな下痢便みたいなものなんですか?」


藤村 「成長をバカにしないでください! 本気で成長しようと努力してる人に失礼じゃないんですか!」


吉川 「その失礼を成長につなげてみては?」


藤村 「……つなげますよ! 成長してみますよ! 見ててください!」


吉川 「いや、見ないですよ。だってそんな成長成長言ってるあなたと、別に成長望んでない私にそれほど差があるとは思えないし」


藤村 「はぁ? 全然違いますよ。気持ちがまず違う!」


吉川 「気持ち? 成長ってそんな思い込みみたいなものなんですか?」


藤村 「ああ言えばこう言う! 何なんだあなたは!?」


吉川 「でもこういう反対意見も成長につながるんじゃないですか?」


藤村 「うるせーよ!」


吉川 「えー……」


藤村 「お前の成長を永遠に止めてやろうか?」


吉川 「そんな小粋な脅し文句初めて聞いた」



暗転


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