たとえツッコミ

藤村 「たとえツッコミってあるじゃん?」


吉川 「うん、たとえツッコミ。わかるよ。あれでしょ? なんかあの……。急に言おうとすると出ないな」


藤村 「ゾンビ映画のなかなかかからない車のエンジンかよ!」


吉川 「あ、そんなの。……そんなのか? え、それなんか微妙じゃない?」


藤村 「うるさいな! こっちが親切心で出してやったものにケチつけるなよ。文句言うならお前が思いつけ!」


吉川 「ゴメンな。親切心を無下にしてしまって」


藤村 「そんなたとえツッコミだけどさ。ことわざってそもそもたとえツッコミだったんじゃないかと思うんだよ」


吉川 「ことわざ。あー、なるほど。確かにそんなの多いな」


藤村 「だろ? そんなん二階から目薬やんか! って言うのもさ。実際に二階から目薬を注そうというバカはいないわけだよ。昔にだって。でもそのくらい無理めなことだなわかるな、っていうそのギリギリ攻めた表現。秀逸なたとえツッコミがことわざになったんじゃないか」


吉川 「なるほど。説得力ある」


藤村 「そんなアホな話ありまっかいな、絵に描いた餅ですがな! とかな」


吉川 「なんで急に関西弁なの? 別に関西の人じゃないのに」


藤村 「兄さんさすが立板に水ですがな! 東京の水は悪い言うから気をつけなはれ!」


吉川 「立て板に水を言いたいんでしょ? 関係ない関西弁が鼻につくな。ちょっとバカにしてる」


藤村 「時は金だっせ! 儲かりまっか! グランシャトーがおまっせ!」


吉川 「どれだよ。時は金なりを言いたかったの? アクの強いの並べると紛れちゃうよ」


藤村 「おいこら兄ちゃん。なんぼなんでも鬼に金棒やないかい。怒るでしかし!」


吉川 「鬼に金棒の使い方間違ってない? 関西弁バカにしたさが前面に出ちゃってことわざの部分が蔑ろになってる」


藤村 「東京のうどんのつゆは真っ黒うて食えたもんやおまへんで! 苦労は買ってでもせよ」


吉川 「前半もう全然関係ないやつ。なに? 黒と苦労の韻を踏んだの? いらないだろ、前半」


藤村 「そんな感じで結局ことわざってたとえツッコミなんだよ。詠み人知らずなだけで」


吉川 「最後の方はもうお前の関西に対する小馬鹿にした態度がノイズになってあんまり伝わってこなかったけども」


藤村 「だから俺たちも秀逸なたとえツッコミを使っていればいつの間にかそれがことわざになって伝承されることもあるわけだ」


吉川 「なるかなぁ? たとえツッコミなんて現代においてはほぼ無限に作られてるんじゃないの? 芸人じゃなくても」


藤村 「そんなん、あの……。芸能人を検索しようとしたら『年収は? 恋人は?』みたいなサイトばっかりでてきちゃって見たところで何も情報量がなくて、んもう! ってなるやつやないか!」


吉川 「下手! たとえツッコミがまず下手。そのキレの悪い言葉がことわざになる未来を思い描けるのか?」


藤村 「今のは出なかったやつ。そういうのもある。昔の人だってことわざにならない言葉を使うこともあっただろう」


吉川 「昔の人でもことわざ狙いで発言してるやついなかったと思うけどな」


藤村 「バイキングなのにサラダいくやつやんけ!」


吉川 「別にいいだろ、バイキングでサラダ食べても。そもそも何? 今のはどの状況に対するたとえツッコミなの?」


藤村 「バイキングの……」


吉川 「いや、バイキングはわかるけど。それはたとえでしょ。俺の発言? 状況?」


藤村 「バイキングなのにサラダいくってことを指摘したかっただけで」


吉川 「言いたかっただけ? もうたとえツッコミでもないじゃん」


藤村 「でもどこかの状況では使えそうなたとえツッコミだからキープしておいて」


吉川 「たとえツッコミをキープするなよ。その状況によって上手いこと言えよ」


藤村 「漏れた時のために替えのパンツを用意しておく、ってやつやないかい!」


吉川 「たとえの時点で最悪すぎるな」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る