時間遡行

吉川 「もし過去のある時点に今の意識のまま戻れるとしたら、いつの時代に戻りたい?」


藤村 「戻る限定?」


吉川 「そうだね」


藤村 「未来は絶対ダメ?」


吉川 「未来に行くってこと? 今の意識のまま? おじいちゃんになっちゃうよ? 全然違う時代の知らない世界で。それだと話として聞きたい話題がずれてきちゃう。未来は言ったもん勝ちみたいになっちゃうじゃん。誰もわからないから。でも過去の話はさ、お前という人間の人生が見えてくるだろ? それを聞きたいんだよ」


藤村 「え、ちょっと待って。それは俺が未来から来てない人限定での話になるよね?」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「だって俺が未来から来た人なら、俺の過去は未来ってことになるじゃない?」


吉川 「えーと、未来から来たから……。あぁ、そういうことか」


藤村 「最近この時代に来たとしたら、俺の5年前は時代としては2000年後かもしれないわけでさ」


吉川 「ややこしいな。よくない? その話はしなくても。お前は未来から来た人間じゃないから」


藤村 「一応そういう事になってるけど」


吉川 「もうよくない? 展開させるの、その話?」


藤村 「もし俺がタイムマシーンで過去に戻ってきたとしたら、どの時代から来たと思う?」


吉川 「おいおい、俺の雑談の話題が台無しになったな。なんで似た感じで上書きした新しいテーマを出してきたの? せめて俺の話題でちょっと盛り上がってからでよくない?」


藤村 「ごめんごめん。なんだっけ?」


吉川 「だから過去。どの時代に戻りたい?」


藤村 「タイムマシーンじゃなくて今の俺の意識が戻るわけね?」


吉川 「そうそう。意識だけ。そこからやり直せるとしたら」


藤村 「ちょっと待って。それって俺の身体が初めから人間だった前提の話になるよね? 昔はロボットだったけど技術の進歩により人間と遜色ない精密なアンドロイドになったとしたら、まだ意識とかの認識も変わってくるんだけど」


吉川 「よくない? そのお前の設定で話を展開させなくてもよくない?」


藤村 「もし俺が人間そっくりに造られた精密なアンドロイドだとしたら、どのくらい未来の技術だと思う?」


吉川 「乗っ取るなよ! 俺の話題を! お前なんで毎回話を上書きするの? まず一旦俺の過去のエピソード深堀りテーマを解決してくれよ! 未来に目を向け過ぎなんだよ!」


藤村 「ごめんごめん。過去をやり直すってことね。でもそれって俺がすでにあらゆる過去の分岐を選択してきてようやくこの時代のこの状況にたどり着いたとしたら話す意味なくない?」


吉川 「もしそうだとしたら話す意味はないけど、そうじゃないから話す意味があると思いますが違いますか!?」


藤村 「え、なに? 怒ってる?」


吉川 「一回さ、シンプルに雑談をしない? なんかその都度あんまり聞いたことのない設定を持ち出して答えをはぐらかすのやめようよ」


藤村 「いや、なんか質問に穴があるなぁと思っちゃってさ」


吉川 「穴はあるよ! でも雑談なんだからいいだろ? 完璧で論理的な思考実験をしようと問いかけてるんじゃないんだよ。ただ、そうなんだ、へぇ~。みたいな生産性のないやり取りでお互いの警戒心や緊張感を緩和しようという目的でやってるんだよ! できないか、それが?」


藤村 「あぁ、そっか。じゃあ時間というのが非可逆で一定方向に等スピードで流れるという前提で俺の過去にあった瞬間に意識を戻して選択をやり直すならいつがいいかってことね?」


吉川 「もういいよ! いい! 聞きたくない! お前の過去に一切興味を持てない! お前という人間にも辟易する!」


藤村 「あぁ、そう。なんかごめん。何度戻ってもここでお前を怒らせちゃうんだよな」


吉川 「今だったのかよ!?」



暗転

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