メンバー
吉川 「俺たちもこんなデカいハコでできるようになったけど、最初は笹咲のところのガレージでさ、夏は暑くて冬は寒くてもう最悪のところでやってて、その時最初に集まったメンバーが四人。四人だった頃知ってる人いる?」
客 「はーい!」
吉川 「あー、ちらほら。ありがとうね。でも俺たちは道は違ってもずっと一緒だと思ってるんで。それだけは変わらない。もう一度その四人でやるところ、見たくない?」
客 「見たいー!」
吉川 「OK。入ってこいよ! 藤村!」
藤村 「あ、どうも」
吉川 「え……」
藤村 「藤村です」
吉川 「え、誰? え!?」
藤村 「あ、あの。藤村の父です」
吉川 「え? 父? え、どういうこと? 本人は?」
藤村 「本人はやっぱりちょっと行きたくないって言い出して」
吉川 「えぇ!? いや、それならそれで先に言ってくれないと」
藤村 「言い出せなかったみたいで。またイジメられるんじゃないかって」
吉川 「いや、イジメとかしてないし。どういうことなの?」
藤村 「あの頃はやっぱり辛かったって言っていて」
吉川 「だからってお父さん来られても困るよ」
藤村 「せめてもの、ということで」
吉川 「なんにもせめられてないよ? あなたメンバーじゃないもん」
藤村 「曲は覚えてきました」
吉川 「曲を覚えてきたの? いや、気を使ってくれたのはわかるんだけどだからと言ってお父さん来られても」
藤村 「ま、実はですね。お恥ずかしい話ですが、以前からカラオケでは何度か歌わせてもらってましたので」
吉川 「あ、そ。でもカラオケで歌ってた人が立てるステージじゃないんだよ」
藤村 「息子からも託されてきました」
吉川 「託したの!? 藤村が?」
藤村 「くれぐれも、と」
吉川 「ちょっとあの、藤村と話せる?」
藤村 「無理です。絶対に嫌だと」
吉川 「なんでだよ! 本人の話を聞かないとわからないだろ」
藤村 「そういう態度がもう無理って言ってました」
吉川 「いや、本当にイジメがあったみたいに言わないでくれる? なかったよ。あいつはあいつで自分の道を行きたいって言い出したんだよ? 俺たちは苦しくなるけどあいつの幸せを願ってそれを飲んだんだから」
藤村 「……という風にあなたがたは思い込んでるわけですね?」
吉川 「おい、やめてくれよ。せめて終わってからにしてくれよ。とりあえず、一旦帰ってもらえるかな。あとはこっちでなんとかするので。お父さんには大変申し訳無いけども」
藤村 「と言ってますが、どうですかお客さんー!?」
客 「いてー!」
吉川 「客を煽るなよ! おじさんが! ただのおじさんが煽るな! お前たちも乗るな! なんの会なんだよ、これは」
藤村 「聞きたいよなー?」
客 「聞きたーい!」
吉川 「いいのか? 知らないおじさんがまじったパフォーマンスで本当にいいのか? こいつは藤村じゃないんだよ?」
藤村 「いえ、私も藤村です」
吉川 「名前はそうだけど! 俺たちの仲間の藤村じゃないだろ。あんたとは思い出がないんだよ!」
藤村 「一回会ってます。二回目のライブの時に」
吉川 「覚えてねえよ! 藤村のお父さん来てたんだ、ってその思い出を携えてこのステージに立ってないんだよ!」
藤村 「あなたはそういうタイプですものね。昔っから」
吉川 「昔をほじくり出して下げてくるのもやめてくんねー? いいの? 本当にやるよ? っていうか、藤村だからギターだよ? できるの?」
藤村 「僭越ながら」
吉川 「おじさんの僭越ながらのギターでやっていいのね? あなたのリフから始まるんだけど」
藤村 「こんな感じで?」
吉川 「あ、上手ぇ……」
藤村 「お前ら最後だ、全部出しきっていくぞー!」
客 「いぇー!」
吉川 「今日一盛り上がってる!」
暗転
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます