余る

藤村 「なんかTVでね、お正月に余った餅の消費の仕方みたいなのを特集しててさ」


吉川 「この時期になると毎年やってる気がする」


藤村 「え? 驚かない? 意味わからなくない?」


吉川 「なんで?」


藤村 「餅だよ?」


吉川 「うん。余った餅ね」


藤村 「餅だぞ!? 余らないだろ、餅は」


吉川 「それは個人個人の話じゃない?」


藤村 「いや、餅だぞ? 食べる餅。余らないだろ!」


吉川 「余ってるご家庭だってあるんだよ」


藤村 「知らないの? 餅って食べられるんだよ?」


吉川 「それは知ってるよ」


藤村 「じゃあ食べればいいじゃん。余らないだろ。どの部分が余るの? 餅の皮みたいな食べられない部分があるの?」


吉川 「いや、だから。お正月なんでって買ったは良いけど、家族の誰も食べなかったみたいな」


藤村 「餅を? 美味しいのに?」


吉川 「だからそれは個人の好みだろ? 好きじゃない人だっているし」


藤村 「じゃあ買わなきゃいいだろ。好きじゃないものわざわざ買ってきて余らせるってなに? そういうプレイをやってるの?」


吉川 「プレイってなんだよ。ほら、買わなくてもさ、近所で餅つきをして配ってたやつとか」


藤村 「食べればいい」


吉川 「そりゃそうなんだけど、飽きちゃうって人もいるじゃない?」


藤村 「餅だぞ?」


吉川 「言いたいことはわかるよ。お前の餅に対する愛情も」


藤村 「日本人て米に飽きたりしないじゃない?」


吉川 「まぁ、いるんだよ、中には」


藤村 「餅だぞ?」


吉川 「うるせーな、それはわかってるって!」


藤村 「だからさ、プラモデル作ってランナーが余るとか、通販で買い物して緩衝材が余るとか、それはもう余ってるじゃん。どうにもならないじゃん」


吉川 「余ってるな、それは」


藤村 「もう取っておいてもしかたないから捨てるしかない。余り物。でも餅だぞ?」


吉川 「なんか自分で言ってて面白くなってきてない?」


藤村 「食べればいいだろ、餅。むしろ食べる以外にどんな使い道で買ったわけ?」


吉川 「子供が食べるかと思って買ったら、思った以上に食べなかったとかあるんだよ。家庭では」


藤村 「餅だぞ?」


吉川 「餅はわかってるよ!」


藤村 「餅だぞェ?」


吉川 「鈴木蘭々みたいに言ったな」


藤村 「その家庭はなに? お金とか余って困ったりしてるの?」


吉川 「そういうわけじゃないだろうけど」


藤村 「お金だぞェ?」


吉川 「鈴木蘭々もしつこいな。あんまり調理方法を知らないから、いつもの食べ方で飽きちゃってるっていう人もいるんじゃない?」


藤村 「餅を?」


吉川 「いや、お前は餅好きなんだろうけど。それほど好きじゃない人だっているだろ。嫌いってほどじゃないけど好きじゃない、だけど季節感を味わいたくて買ってみたはいいが、持て余してるって人も」


藤村 「今、餅余ってると持て余してるで韻踏んだ?」


吉川 「踏んでないよ! お前が納得いかないのはわかるけど、全員が全員同じ価値観じゃないんだから。そういう人もいるんだな、って思っておけばいいじゃん」


藤村 「余るってそういうこと? うちにクリスマスの時に買ったクラッカー余ってるけど、これは余ってるじゃん?」


吉川 「それだってクラッカー鳴らすの大好きな人にとっては、クラッカーだぞェ? ってなるかも知れないじゃん」


藤村 「クラッカーは普段遣いできないだろ。うるさいし」


吉川 「だから好きな人もいるかもしれないじゃん。ちょっとしたことでクラッカー鳴らす習慣がある人。寝起きに一発とか」


藤村 「そんな人はいない」


吉川 「お前がそんな人を想像できないように、餅を余らせてる人からしたらお前みたいな人も想像できないんだよ」


藤村 「だってクラッカー大好き人間なんていないもん」


吉川 「わかったよ。例が悪かった。なんかそうだな、余ってるもの。他になんか余ってるものないの?」


藤村 「強いて言えば暇を持て余してるけど」


吉川 「それは聞く前からわかってる」



暗転

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