チェンジ

吉川 「か、怪獣が!? 一体どうしたらいいんだ」


藤村 「聞こえるか、地球人!」


吉川 「なんだ? どこから聞こえてくるんだ、この声は」


藤村 「緊急でキミの心に訴えかけてる。どうかこの声が届いてるなら反応して欲しい」


吉川 「は、反応って言われても!」


藤村 「聞こえてる証拠にズボンを脱いで振り回してくれ」


吉川 「それは嫌だな! 失うものが多すぎるだろ。手を振るからそれで勘弁してくれ」


藤村 「どうやら聞こえてるようだな。地球人のキミに怪獣を倒すためのパワーを送りたい。受け取れば怪獣以上の力を持つ戦士に変身できる」


吉川 「このボクが!? ええい、やるしかないのか!」


藤村 「もし受け取ってくれるなら、了承の合図としてパンツを脱いで振り回してくれ!」


吉川 「なんで毎回脱がせようとするんだよ。地球ではそんなことしたら一発アウトなんだよ。いいから送ってくれ!」


藤村 「よし、送るぞ!」


吉川 「こ、これが……!?」


藤村 「腕についたジェネリクソン・ブレスにジェネリクソン・メダルをセットするんだ!」


吉川 「なんておもちゃにしやすそうな変身ガジェットなんだ。こうか?」


藤村 「そして大きな声で叫ぶ。チェンジ・ジェネリクソン! と」


吉川 「チェンジ・ジェネリクソン! ……ん? 何も起きないけど」


藤村 「よし! まず変身準備の確認ができた。つづいて一緒に転送したジェネリクソン・変身同意書にジェネリクソン・署名をするんだ」


吉川 「え、署名? なんか手続きがお役所っぽくなってきたけど」


藤村 「なにせ違う星にパワーを送るんだ。宇宙的に問題が起きないようにきちんと処理しなくてはならない」


吉川 「ジェネリクソン・署名ってのは、普通にサインでいいの?」


藤村 「地球人の技術力ではそれが限界か。ならばそれでいい。なるべく読めるように書いてくれ。読めないと突き返されるからな」


吉川 「突き返されるんだ。融通効かないな」


藤村 「地球人にパワーを送るなんてことが前代未聞なんだから、これでも融通効いてるんだよ」


吉川 「よし、ジェネリクソン・署名をしたぞ!」


藤村 「そうしたら大きな声で叫んでくれ。チェンジ・ジェネリクソンと!」


吉川 「チェンジ・ジェネリクソンーッ!」


藤村 「これでジェネリクソン・申請が通ったぞ。ただこの時間だともう受付の人が帰ってる可能性があるから、その場合は明日になるな」


吉川 「いや、今怪獣が暴れてるんですけど! こういうのすぐなんかできるんじゃないの?」


藤村 「あ、違うわ。土日を挟むから月曜の朝一になるな」


吉川 「営業日で換算してるの!? 宇宙なのに? お役所仕事過ぎるだろ」


藤村 「どうしてもというならしかたない。なるはやで処理するために手を回すか」


吉川 「はい。なるはやで!」


藤村 「ジェネリクソン・総務部に緊急のジェネリクソン・コールをするんだ。できればなるべく切羽詰まった感じで、ちょっと具合悪そうに入れてくれ」


吉川 「演技必要なの? そういうのもっとシステマチックに回してくれないかな」


藤村 「もう限界って感じでチェンジ・ジェネリクソンっと言ってくれ」


吉川 「チェンジ・ジェネ……リクソン……」


藤村 「あー、ダメだ。課長が聞いてないって口挟んできた。まったくいつもそうなんだよ。自分主導の企画じゃないと必ず邪魔しに入ってくるんだから」


吉川 「そっちの社内政治に巻き込まないでくれる? こっちは怪獣で大変なんだけど」


藤村 「大丈夫。こんな時のために部長とジェネリクソン・ゴルフで親交を深めてあるから。向こうから口効いてもらうわ。一応大きな声でジェネリクソン・ナイスショット! って叫んでもらえる?」


吉川 「言うの? その接待みたいなのを地球人のボクが?」


藤村 「一応、それで好感度上がるかも知れないから」


吉川 「ジェネリクソン・ナイスショット! ……何させられてるのこれ?」


藤村 「あ、さっきのジェネリクソン・署名だけどジェネリクソン・捺印が足りないって言われてるわ」


吉川 「すりゃいいんだろ、早く!」


藤村 「ジェネリクソン・印鑑は持ってる?」


吉川 「持ってるわけ無いでしょ。概念すら知らないんだから。ジェネリクソン・拇印でいいだろ!」


藤村 「わかった。それで。よし、申請が通ったぞ。ここでチェンジ・ジェネリクソンと叫ぶんだ」


吉川 「チェンジ・ジェネリクソン!」


藤村 「あ、ごめん。俺が定時だわ。今日のところは帰らせてもらうわ」


吉川 「残業しろよ!」



暗転

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