透明人間
藤村 「もしだよ? もしもの話。透明人間になる能力があったらどうする?」
吉川 「中学生の妄想みたいなことを真顔で言い始めよる」
藤村 「あくまで仮定の話ね」
吉川 「あくまなくても仮定の話なんだよ。透明人間なんてフィクションなんだから」
藤村 「お前ならどうする?」
吉川 「そりゃ、定番のあれじゃないの? 女湯とか」
藤村 「はぁ……。お前さぁ、せっかく透明人間になるっていうものすごい能力なのに、やりたいことが犯罪なの?」
吉川 「そんな本気トーンで説教する? だって他に考えたことないもん」
藤村 「女湯行って終わり? 能力が女湯で完結? これでもう満足したからこの能力は余すことなく使い切ったわって納得するわけ?」
吉川 「いや、だから。ちゃんと考えたことないから。透明人間に対して。そんなバカバカしいことに真剣に向き合ってないもん」
藤村 「考えろよ。実際に自分がその能力を持ったとして女湯なんか行くか? 能力の特性上こっちは服も着れないし靴も履けないんだぞ?」
吉川 「あ、そういうシステムなんだ。まぁ服だけ浮いて見えちゃうもんな」
藤村 「そんな真っ裸の状態で女湯なんかに行っても、なんか恥ずかしいだろ? バレるんじゃないかって心配が勝ってエロい気持ちどころじゃないんだよ! 何かにぶつかったらダメだし、水を踏んだら足跡ができちゃうから中には入れないし」
吉川 「思ったより妄想がリアルだ」
藤村 「それに女湯、ババアしかいない! まじでいない。この世の若い女は風呂に入らないのかってくらいババアしかいない」
吉川 「まるで見てきたかのような」
藤村 「近所の銭湯だったけど、はっきり言ってババアならまだましなレベル。なんかミイラみたいながウヨウヨしてる。ドラクエⅢで黄金の爪取ったあとみたいになってる」
吉川 「若い女はスーパー銭湯とか行くんじゃない?」
藤村 「発想が貧困。スーパー銭湯なんてどうやって行くんだよ? 電車乗らなきゃ行けないんだぞ? こっちは家から裸。靴も履いてない。駅に辿り着く前に足の裏ズタボロだからな!」
吉川 「それ本当に仮定の話?」
藤村 「そもそも女の裸なんて見てどうするんだよ。すみっこでじっとしてどうにもできないんだぞ? 変に動いたりしたら音を立てちゃうし。たまったもんじゃないよ。だいたいああいうのはこっちも裸を見られるのが興奮するんじゃない? 透明人間だとその可能性はゼロだから。全然ダメなんだよ」
吉川 「それはお前の癖だろ。見られたい人が透明人間になるなよ」
藤村 「もう女湯って発想がガッカリ。何の参考にもならない。ちなみに更衣室も一緒だからな。まじで二度と行きたくない」
吉川 「行ったんだ。透明になって」
藤村 「……あくまで仮定の話だから」
吉川 「じゃあそうだな。すごい能力なんだからもっと正義のヒーローみたいなことを目指すか」
藤村 「ないんだよ。それが一個もない。透明じゃないと成立しない善行ってこの世には一つもない!」
吉川 「そんなことないだろ。なんか万引きを捕まえるとか」
藤村 「監視してるの? いつ起こるかわからない万引きを? こっちは裸だぞ? 裸で万引き起こらないか待ち続けるの? 本気で考えてそれか?」
吉川 「まぁまぁまぁ、確かにそうだ。今のは俺が悪かった」
藤村 「そもそも結構寒いからね。長時間はいれないから」
吉川 「あ、能力による制限時間じゃなくて寒いからなんだ」
藤村 「早く教えてくれよ! どうしたらいいんだよ!?」
吉川 「そんな切実に。本当になれるの? 透明人間に」
藤村 「あくまで仮定だから」
吉川 「いや、なれるんだろ? 話に説得力がありすぎる。実際にやったとしか思えない」
藤村 「そんなわけないだろ。透明人間になれる能力なんて。俺の能力はもっと他のやつだよ」
吉川 「他の!? 他のすごい特殊能力に目覚めたの? どんなの? 透明関係? 身体能力系?」
藤村 「妄想を現実感を持って語れる能力だよ」
暗転
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