方がいい

吉川 「『スピーチとスカートは短い方がいい』なんてこと言って炎上してる人がいるんだけど」


藤村 「そりゃそうだろ。炎上して当然だよ。ファッションというのは状況に合わせて組み合わせて成立させるものなんだから。一律に短い方がいいなんて考えは浅はかすぎるね」


吉川 「いや、そういう意味で炎上してるんじゃないんだよ。なんというか、短いスカートの方がいいというのはセクハラなんじゃないかという。要するに時代に適応できてないおじさんの趣味が見えてしまった感じだよな。『女房と畳は新しい方がいい』とかダメだろ?」


藤村 「確かに今の時代だとなぁ。畳なんてそもそも古いから。普通フローリングだよな」


吉川 「そういう意味じゃないよ。別に畳に対して時代性を感じてるわけじゃなくて」


藤村 「ラグだったらよかったんじゃない? 『女房とラグは新しい方がいい。できれば抗菌の方がいいし丸洗いできるタイプが好ましい』とか」


吉川 「後半部に怒ってる人はいないんだよ。女房が。女性を新しいとか古いとかの視点でしか見ることのできない人権意識の低さがダメなんだろ」


藤村 「あー、そっちか。まぁ、気の利いた言い回しをしようとしてスベるってのは一番恥ずかしいからな」


吉川 「なかなか現代だとそういうユーモアも難しそうだよね」


藤村 「『AV女優とグラビアアイドルは巨乳の方がいい』なんてのはいいんじゃない?」


吉川 「それはお前の趣味! あと対象が近接しすぎてる。ほぼ一緒。全然違うものを併記してるところに面白味があるのに」


藤村 「でも巨乳の方が良くない?」


吉川 「お前個人の考え方。そうじゃない人もいるだろ。なにか上手いこと言ってそうでなにも上手いこと言ってない。もう根本の構造が間違ってる」


藤村 「あー、わかった。つまり『顔にできる謎のブツブツと前科は少ない方がいい』みたいな?」


吉川 「共感性がない! どっちも! なんだよ、顔にできる謎のブツブツって!?」


藤村 「それは謎だから。でも少ない方が良くない?」


吉川 「もちろん少ない方がいいよ。できて欲しくないよ。なんだか分からなすぎて怖いもん」


藤村 「前科もでしょ?」


吉川 「そもそも前科はさ、多い少ないじゃなくてあるかないかじゃない? なんか多い少ないの判定してる時点でろくでもないというか。世の中にはそもそもない人ばかりだからね?」


藤村 「顔にできる謎のブツブツも?」


吉川 「だからそれがわからないんだよ! 何なんだよ! 少ない方が良いけど、そもそもない方がいいものだろ。多い少ないで語るなよ!」


藤村 「じゃあ『一人で行ったお店のカウンター席のアクリル板の仕切りと心は広い方がいい』ってのは?」


吉川 「心狭いだろ! その自分のテリトリーの広さみたいなのをちょっと気にしてる時点で相当心が狭いだろ」


藤村 「食べながらこう肘でちょっとずつ押して拡張したりして」


吉川 「せこいよ! とても心が広い人がたどり着く境地じゃないよ!」


藤村 「『CHA-LA HEAD-CHA-LA、頭カラッポの方が夢詰め込める』ってのは?」


吉川 「何が起きても気分はへのへのカッパなんだよ! もう構文がグチャグチャになりすぎてる。自由にやるなよ!」


藤村 「『感謝の気持ちと靴は大きすぎず小さすぎずちょうどいいサイズの方がいい』ってのはどう?」


吉川 「感謝と靴に限らなすぎるだろ。この世のあらゆるものは大きすぎず小さすぎずちょうどいいサイズの方がいいんだよ!」


藤村 「でもAV女優とグラビアアイドルは……」


吉川 「むしかえすなよ! それはお前の癖なんだよ!」


藤村 「すごいさっきからまくしたてるなぁ。『ツッコミとおしっこは勢いのある方がいい』って感じか」


吉川 「おしっこと並列されちゃうと、いいって言われても良さを実感できない! もっとこう、ズバーンと人の心の打つような、そういう言葉を言わなきゃダメだろ!」


藤村 「別にダメではないだろ。ちょっとしたユーモアなんだから」


吉川 「だからこそだよ! 誰かを傷つけるかもしれない恐れがある発言なら尚更のこと、きちんと多くの者の心に刺さる言葉じゃないと!」


藤村 「でも主張と香水は控えめの方がいいよ?」


吉川 「最後になんか、ちゃんとするなよ!」



暗転

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