教育

藤村 「えー、ご紹介に預かりました。藤村と申します。私はこの教育推進議会の会長でもある吉川さんの後輩にあたりまして、なにを隠そう私がこの教育の道に携わるきっかけとなった人がこちらの吉川さんでした」


吉川 「懐かしい話ですな」


藤村 「当時学生だった吉川さんは義侠心あふれる正義の人でした。常に私たちを叱咤激励し導いてくれておりました。時に激しい言葉で、時に体当たりで。その体当たりっぷりと言ったら、病院に担ぎ込まれたものも少なくありませんでした」


吉川 「あの、誤解が生じるといけないのでお断りさせてもらうと、暴力は一切振るっておりません」


藤村 「はい。身体の暴力はありませんでした。強力な叱咤激励で二度と笑顔を見せなくなったものはおりました」


吉川 「言葉の暴力もしておりません! ただ、私も未熟でしたから他にもっと良いやり方があったかもしれませんが、今はそういう事も踏まえて襟を正していこうと思っております」


藤村 「そうです。その甲斐ありまして、未熟だった私たちも大きく道を踏み外す事なく、小さく道を踏み外す程度でここまで来れました」


吉川 「踏み外したことはいいんだよ。中にはそういう者もいたかもしれないが」


藤村 「ただ、間違いを犯してしまった者に対しても吉川さんは手を差し伸べてくれました。あの、ほら。こそ泥の笹咲。あいつは今は吉川さんの下で働いてるんですよね?」


吉川 「会社でね! 別に私の手下ってわけじゃないから。会社として雇用したというだけ」


藤村 「ねえ、あいつなんかしょっちゅう捕まって。あれ、この間も捕まったんでしたっけ?」


吉川 「2年は捕まってないよ」


藤村 「こそ泥もここ2年は捕まらずにしっかりやってるわけですよね」


吉川 「仕事をね! こそ泥っていうのもやめて。確かに窃盗で前科はあるけれども、刑期を終えてセカンドチャンスとして雇い入れたんだから。そういう場も必要なんだよ」


藤村 「私たちがお金がない時も、どこから集めたのか謎のお金でご飯を食べさせてくれました」


吉川 「ちゃんと働いたよ! 別にどこで稼いだかなんて言わないだろ、普通」


藤村 「あのパー券捌いてたやつ、自殺したんでしたっけ? 吉川さんと仲の良かった」


吉川 「無関係です! はい、ということで藤村さんでした。今後もこの議会で活躍していただくことを期待しております。続いては……」


藤村 「いや、皆さん。私は吉川さんのとっておきのエピソードがあるんですよ。これを聞かないと勿体ない」


吉川 「いいんだよ、藤村くん。そのとっておきはとっておきなさい」


藤村 「死者2名、逮捕者26名を出した伝説の大抗争。あの時はシビレたぁ!」


吉川 「それに関しては、私は関与しておりません」


藤村 「そうなんです。警察の方も吉川さんが関与した証拠を見つけられないという徹底ぶり。やっぱりこういう人が上に立つ人なんだなと確信しました」


吉川 「本当に関与してないんだよ。なに隠蔽したみたいに言ってるの?」


藤村 「大丈夫です。時効ですから、時効」


吉川 「そういう問題でもないんだよ。これから教育について話し合わなきゃいけないんだから」


藤村 「本当に吉川さんは素晴らしくてですね、悪い噂は一切聞きません。以前何人か言ってるものはいましたけども、なぜか消えていきましたね」


吉川 「なんかしたみたいに言うなよ! 知らないよ、そんなの」


藤村 「あれは不思議でしたね。ピタッと噂が止まるというね。もちろん褒めてる方も大変多いです。中でも多少贅沢などをしてる方々は皆さん褒めてらっしゃる」


吉川 「サンプルの取り方が作為的すぎない? もっとまんべんなくいるでしょ、普通に褒めてる人も」


藤村 「吉川さんは強いリーダーとしてその求心力を活かしてくれると思いますので議会の皆さんも心しておいてください」


吉川 「ええと、ありがとうございました。藤村くんは昔から冗談が好きで、ユニークな物言いをしますが根は真っ直ぐな男です」


藤村 「では議会の皆さん、吉川さんと盃の契を」


吉川 「変な儀式を初めるんじゃない!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る