ファッション

藤村 「吉川っていつもおしゃれだよな」


吉川 「そうかなぁ? まぁ服は好きだけどね」


藤村 「なんかコツとかあるの? センス良くなるような」


吉川 「コツっていうか、好きなもの買ってるだけだから。でも結局ファッションてさ主張だから」


藤村 「含蓄ある言葉ー! ファッションは主張。なるほどぉ。このジャケットはどんなの?」


吉川 「どんなのっていうか、結構シルエットがカッチリしてるじゃない? 結構高かったんだよ」


藤村 「あ、このブランド!」


吉川 「そうそう、知ってる?」


藤村 「動物の殺処理方法に問題があると批判されてたブランドだよね! なるほど、主張があるなー」


吉川 「いや、その主張は別に俺は持ってないけど」


藤村 「いやいや、ご謙遜を。なるほどね。やっぱり畜生の生き死になんて人間様が気にかけるようなことじゃないもんね」


吉川 「極悪人みたいなこと言うなよ。その考えに同意して買ったわけじゃないよ」


藤村 「このズボンは?」


吉川 「ボトムスも細身で。タイトに見える方が好きなんだよね」


藤村 「これもブランド?」


吉川 「国内のね。昔はDCとか言ったけど」


藤村 「あー、これってデザインをパクったって話題になってたところ! 散々ネットで批判されても否定してたんだけど、結局裁判でパクリ認定されたやつ!」


吉川 「あったけどね。別に全部パクリってわけじゃないから」


藤村 「でも主張があるからなぁ。やっぱりパクったもん勝ちだもんね。結局この世は食うか食われるかなんだから」


吉川 「普通に考えてそれで選ぶことはないって思わない? あ! パクってるブランドだ。買おう! っていう流れはないだろ。関係ないんだよ!」


藤村 「そのシャツは?」


吉川 「いや、見ないでくれ。これはなんでもない」


藤村 「知ってる! そのブランドのCEOが女性差別してたやつだ! やっぱり主張が!」


吉川 「詳しいな、オイ! なんでブランドのスキャンダルにそんなに詳しいの? あんまりそこを注目してブランドを選ぶ人いないぞ?」


藤村 「その靴は?」


吉川 「もういいよ。ただの靴だよ。勘弁してくれよ」


藤村 「高いやつだよね?」


吉川 「知らない。どこでも一緒だから、靴なんて」


藤村 「いやいや、それはちょっとしたブランドですよぉ」


吉川 「いやらしい言い方するな! あるのかよ、なにかスキャンダルが?」


藤村 「その靴の広告をやってたハリウッドスターが捕鯨を批判していて」


吉川 「広告かぁ! それはでもそのハリウッドスターの問題じゃない?」


藤村 「起用するに当たって調べてないってことはないでしょ」


吉川 「ないか……」


藤村 「主張が強いですなぁ!」


吉川 「嬉しそう。心底嬉しそう。性格が悪い笑み」


藤村 「そのカバンもさ」


吉川 「もうなに? なにがあるの?」


藤村 「それを使ってた人、ダブル不倫してたよ?」


吉川 「それは流石に関係なくない? ユーザーまでは! 末端のユーザーの素行を調べて買うことってないでしょ。どのブランドでもだいたい誰かユーザーは不倫してるよ!」


藤村 「いやでも、ファッションは主張だから。同じ趣味ってことでしょ?」


吉川 「あのさ、だったら聞くけど、お前の服はどうなの? それ!」


藤村 「これは安いやつ。人件費を切り詰めて奴隷みたいな感じで作ってる服」


吉川 「酷いじゃん! それわかってて買ったの?」


藤村 「安かったから」


吉川 「ダ、ダメだろ! そんな奴隷みたいの」


藤村 「人類って人間の価値の差によって文明を築いてきたわけだから。それを否定するのは人類の歴史を否定することになるよ?」


吉川 「なにその遠大な感じで論破してくるの。歴史はともかく現代の人権意識じゃダメだろ」


藤村 「驚くのはそこじゃないんだよな」


吉川 「いや、だってダメだから! どんなにセンスがあってもダメって感じで言ってきたじゃん! だったら驚くのはどこなんだよ!?」


藤村 「転売で買った」


吉川 「最悪ー!」



暗転







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る