お父さんに挨拶

藤村 「今度彼女のお父さんに挨拶しに行くんだけど、シミュレーションさせてくれないか?」


吉川 「いよいよか。それはやっておいた方がいいな。俺がお父さんを演ればいいの?」


藤村 「どうしよう? 俺が演った方がいいか?」


吉川 「なんでだよ! 俺はじゃあ誰なんだ。いきなり配役から漏れたよ」


藤村 「玄関演ってくれる?」


吉川 「無機物。俺がやる必要ないだろ! 玄関の入り方は練習いらないだろ」


藤村 「じゃあお前は俺を演ってよ」


吉川 「面倒くさいことになってる! お前はお前でいろよ! 俺がお前を演る意味がないだろ」


藤村 「お前から見た俺ってどんなやつなのか興味あるし」


吉川 「それは別の機会にしてくれよ。お前はお前を演って、俺はお父さんを演る。それでいいだろ?」


藤村 「そうするとお父さんは誰を演るの?」


吉川 「お父さんはこの場にいないだろ! 本番ではお父さんはお父さんが演じるから大丈夫だよ。俺は練習の時だけなんだから」


藤村 「じゃあお前はお父さんを演じてくれ。俺は俺を演る」


吉川 「最初からそれしかなかっただろ。お父さんってどういうタイプなの?」


藤村 「う~ん、まずはお前なりのお父さんを見せて欲しい」


吉川 「オリジナリティ追求するなよ! シミュレーションなんだろ? 俺なりのお父さんが全然違ってたら意味ないじゃん」


藤村 「でもほら、俺も会ったことはないし」


吉川 「情報がないのか。じゃあ、一応それっぽく演ってみるけど」


藤村 「はじめまして。藤村です」


吉川 「うむ。キミかね」


藤村 「お父さん、歯ガッタガタっすね」


吉川 「言うなよ! よしんば歯がガッタガタだったとしても、絶対に彼女のお父さんに挨拶する時に言っちゃダメだよ! もうこれは国際法で決まってるんだよ!」


藤村 「あ、そっか。本物のお父さんかと思ってつい」


吉川 「本物のお父さんだったら余計ダメなんだって。もう二度と言うな!」


藤村 「お父さん、その腰のタトゥ、セクシーですね。蝶ですか?」


吉川 「お父さんどんなやつなんだよ! 腰に蝶のタトゥ入れてるのヤリマンしかいないんだよ。外見は指摘するなって! なにがあっても」


藤村 「あ、そっかそっか」


吉川 「キミが藤村くんかね」


藤村 「え、お父さん。日本語喋れたんですか?」


吉川 「ちょっと待ってくれよ。お父さん何人なんだよ! そういうのは先に情報くれよ」


藤村 「いや、喋れたんだなーと思って。お父さん多分日本人だと思うけど」


吉川 「じゃあそこで新鮮に驚くなよ! どういうお父さんを想定してたのかお父さん側もビックリしちゃうだろ」


藤村 「危なっ! なんだ、お父さんそんなところにいたんですか。気をつけないと踏みつけられちゃいますよ」


吉川 「お父さんのサイズ感! そんなミクロなお父さんじゃないだろ。わからないなりに普通のお父さんを想定しろよ」


藤村 「お父さん、今日仕事……。あ、なんでもないです」


吉川 「お父さんに同情をするなよ! 見下した上で同情するなよ! 彼女のお父さんなんだろ。もうちょっと尊べよ!」


藤村 「お父さん、できれば何か着てもらえると助かるんですが」


吉川 「着てるだろうよ、お父さんは。いつから裸だったんだ。タトゥの時からか? あの時から裸でそれ以降のくだりはに触れずにやってきたのか?」


藤村 「お父さん、とりあえず中に入りません?」


吉川 「外だったの? 裸で。お父さんに解決すべき問題が多すぎて話が一向に深まらない!」


藤村 「お父さん、そこに段差ありますから気をつけてください。ちょちょちょ、ダンサーじゃなくて段差です。お父さん? おと、お父さん!?」


吉川 「お父さんメチャクチャ踊ってるじゃん。いいんだよ、お父さんのコミカルなキャラ付けは。とっとと本題に入れよ!」


藤村 「そうだな。お父さん、実は折り入ってお話があるんですが」


吉川 「うむ」


藤村 「実はこの芸能人も使ってるサプリが凄くてですね。ただこれ会員にならないと購入できないんですよ。でも安心して下さい。お父さんが会員になったあとに、新規に会員を増やしていただければ……」


吉川 「何しにお父さんに会いに行くんだよ!」



暗転




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