火もまた涼し

吉川 「暑すぎる!」


藤村 「おいおい、まだそんなこと言ってるのか?」


吉川 「いや、暑いだろ」


藤村 「俺はもうそのステージは過ぎた。この世には便利な言葉があってな、聞いたことないか? 『心頭めっちゃクールすれば火もまた涼し』」


吉川 「聞いたことある!」


藤村 「だろ? めっちゃクールにすれば火すら涼しいわけよ」


吉川 「心頭ってなんだよ?」


藤村 「心と頭ってことだ。つまりこの湧き上がってくるインスピレーションとヴァイブスをめっちゃクールにしろってことだよ」


吉川 「なるほどー。めっちゃクールって例えばどんなの?」


藤村 「聞きたい? 俺のめっちゃクール?」


吉川 「殺してでも聞き出したい!」


藤村 「自転車の片手離し」


吉川 「めっちゃクール!」


藤村 「だろ?」


吉川 「おい、めっちゃクールじゃん。それいつ思いついたんだよ?」


藤村 「まだあるよ? コーカサスオオカブト」


吉川 「めっちゃクール! 素人はヘラクレスオオカブトに行きがちだけど、コカオオは横の角で攻撃力が2倍だからな! 一番クールなやつじゃん!」


藤村 「お前もめっちゃクールしていいぞ?」


吉川 「いけるかな? えーと、サングラス?」


藤村 「惜しい! クールではある。もう一声欲しい」


吉川 「サングラスを……こう、下にずらして『待った?』」


藤村 「めっちゃクール! 才能あるじゃん」


吉川 「わかってきたかも。じゃあこれは?」


藤村 「来い来い!」


吉川 「前髪をかき上げて『一限だり~』」


藤村 「めっちゃクール! セリフ付きのやつ生み出すのヤバいな」


吉川 「こういうのは?」


藤村 「畳み掛けるかー」


吉川 「指をこめかみに当てて『御託はいいからロシアン・ルーレットで決めようぜ?』」


藤村 「めっっっちゃクール!! なにそれ! 神クールじゃん」


吉川 「いけてる?」


藤村 「いけてるっていうか。今気づいたんだけど、ロシアン・ルーレットってどこにつけてもめっちゃクールになるボーナスワードなんじゃない?」


吉川 「俺も思った」


藤村 「足を組んで『結局、マッチングアプリってのはロシアン・ルーレットなんだよな』」


吉川 「めっちゃクール! ロシアン・ルーレットは全部いけるわ」


藤村 「じゃあこれは?」


吉川 「どれどれ?」


藤村 「項垂れながら『人生って甘くないよな。ロシアン・シュークリームだぜ』


吉川 「あぁ! クール! 惜しい気がする」


藤村 「めっちゃいかないか! ロシアンじゃないんだな。そっちがクールなわけじゃないんだ」


吉川 「こう、腰をくねらせながら『細かいこと考えずにメキシカン・ルーレットでいこうぜ!』」


藤村 「めっちゃホット!」


吉川 「あー、そうか! これホットか?」


藤村 「寒暖自在じゃん! 普通どっちもいけるやついないぜー」


吉川 「なんか自然とできちゃったな」


藤村 「シンプルいっていい?」


吉川 「シンプル欲しいよ! ちょっと技巧に走りすぎた」


藤村 「海老とアボカドの」


吉川 「え?」


藤村 「海老とアボカドの。ほら、メニューで。海老とアボカドのサラダとか、サンドとか」


吉川 「あー! めっちゃクール! 海老とアボカドのはめっちゃクールじゃん! もう頼んでる人全員味とか関係なくクールさで選んでるもんな!」


藤村 「よかったー。ちょっとルール的に曖昧かと思ったんだけど」


吉川 「いや、むしろそこは開拓していくべき! じゃあフラペチーノは?」


藤村 「でたー! 頼んでるやつ一人も意味を理解してない名称! めっちゃクール!」


吉川 「でもフラペチーノは固有名詞だからな。海老とアボカドの、みたいな取り付けて完成するめっちゃクールとは違うな」


藤村 「ビリティ」


吉川 「なに?」


藤村 「ビリティ。サステナビリティ、モビリティのビリティ」


吉川 「めっちゃクール! ビリティは絶対にそれだわ。え、ひょっとしてすべての言葉をめっちゃクールにできるんじゃない?」


藤村 「ごま塩ビリティ」


吉川 「めっちゃクール! 六本木で出てくるメニューじゃん! 全部いけるわ」


藤村 「奈良漬けビリティ」


吉川 「一番クールじゃない奈良漬けすらもめっちゃクール! 奈良がめっちゃクールになったの1500年ぶりだよ!」


藤村 「これは無限にいけるな。盛り上がってきたー」


吉川 「やべー、すごい汗かいてる! 暑っちぃ! 死にそう!」



暗転

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