矛盾

藤村 「さてお立会い! ここにあるのはどんなものでも貫くことができる最強の矛だ。天下無双の豪傑もこの矛を見たら裸足で逃げ出すという代物。一つどうだ?」


吉川 「矛かぁ。矛はいらないなぁ。普段使わないし。そんなのぶん回してたら捕まっちゃうよ」


藤村 「なるほどなるほど。ならばそんな人にはこちらだ」


吉川 「ひょっとして……」


藤村 「そう! ここに取り出したるは最強の化粧下地」


吉川 「ひょっとしてなかった」


藤村 「化粧水も乳液もこれ一本。UVケアもバッチリでテカらない崩れない。これ以上のものがあったら教えてほしいくらい! 一つどうだ?」


吉川 「どうって言われても。矛の次がこれ? 化粧下地? 化粧下地ってものがそもそもどんなものかもあんまりよくわからないんだけど」


藤村 「とにかく最強! トーンも一段アップするよ?」


吉川 「もしその最強の矛で最強の化粧下地を突いたらどうなるんですか?」


藤村 「化粧下地は無傷ですが? 人は死ぬけど」


吉川 「あ、人は死ぬんだ。そりゃそうか。化粧下地は防御機能ないもんな」


藤村 「でもなんでそんなことするの? ひどくないですか? それは単純に暴力ですよ」


吉川 「あ、すみません。どうなるかなーと思っただけで」


藤村 「普通しないですよね? 最強の矛ってわかってるのに。バカじゃない限り考えればわかりますよね?」


吉川 「そういう故事に基づいたやつなのかと思ってしまいまして」


藤村 「ではこれはどうだ? これぞ最強の水場用洗剤。台所もお風呂もこれ一本。ただし酸性なので換気は十分にして、決して塩素系の洗剤と併用しないで下さい」


吉川 「この流れ、むしろ最初の矛はなんだったんだ。客層絶対に違うだろ」


藤村 「なんとこの矛もこの洗剤で磨いてこの通りピカピカに!」


吉川 「併用できるんだ。矛とは。矛のライバル的な商品は出てこないのかな」


藤村 「そういうお客さんのためにご用意したのがこちら! 最強の電動マッサージ器。強さは無段階調整で好みにあった振動を選べます! また静音防水設計なのであらゆる場所をマッサージすることができる優れもの!」


吉川 「癒やす方向性で? 壊す矛と癒やす電マの対決になるの? それをぶつけ合うとどうなっちゃうの?」


藤村 「なんでぶつけ合っちゃうんですか? 矛とマッサージ器を? どんな理屈で?」


吉川 「いや、なんていうか。矛盾ってあるじゃないですか?」


藤村 「はい。論理的に破綻してるようなことですよね?」


吉川 「そうです。最強の矛ってそれのやつじゃないんですか?」


藤村 「基本的な使い方知らないんですか? 武器ですよ?」


吉川 「いや、そうだけど」


藤村 「まあぶつけ合ったら矛がブルブル震えるでしょうね。無段階で。突かれた方はたまったもんじゃないでしょうね」


吉川 「そうだよね。あの、盾は売ってないの?」


藤村 「盾? 盾って、なんかトロフィー的なやつですか?」


吉川 「いや、それも盾だけど。防ぐやつ。攻撃を」


藤村 「機動隊じゃないんだから、日常でそんなの使う人います?」


吉川 「だったら矛はどうなんだよ! 矛売ってるなら盾もあるだろ」


藤村 「矛は高いところの枝だって切れるし。最近はDIYブームだから割と需要あるんですけど。盾? 何に使うんですか?」


吉川 「ちゃんと用途あったんだ。全然矛盾してこないな」


藤村 「そういうお客さんにはもうこれしかない! これぞ最強の論客になれるセミナー! あのインフルエンサーもここ出身! どんな相手でも論破できる初心者用ガイドもついてる! どうです?」


吉川 「その最強のネット論客を矛で突いたらどうなります?」


藤村 「常識で考えたらわからない? 死にますよ」


吉川 「矛ください」



暗転

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