二種類

藤村 「まったく、やってられねーよな」


吉川 「どうした、思い詰めた顔して」


藤村 「結局この世には二種類の人間しかいないんだよ」


吉川 「あー、あんまりよくないぞ。そういう風に極端な二元論に陥るのは。視野が狭くなってる証拠だよ」


藤村 「だってそうだろ? 結局この世には、ゴリラっぽい人間とゴリラっぽくない人間しかいないんだよっ!」


吉川 「何の話? 極端な二元論にしても極端過ぎるところに行き着いちゃったな」


藤村 「まじでゴリラっぽい人間にはゴリラっぽくない人間の気持ちなんて絶対わからないんだよ!」


吉川 「その前に人の気持ちを完璧にわかることなんてないから。ゴリラっぽさはその分別の手助けにならないんじゃない?」


藤村 「お前はゴリラっぽくないからそういうけどさ」


吉川 「あ、俺はゴリラっぽくない方なんだ。自分がどっちに属してるのかもあんまり把握してなかった」


藤村 「ゴリラっぽいやつらはよぉ、マウントばっかり取りやがって」


吉川 「あ、マウントを取るような人間のことをゴリラに例えてるの? 類人猿がするマウンティングを例に出して」


藤村 「リンゴを素手で握り潰しがちだしよぉ!」


吉川 「例えじゃなかったな。それはゴリラだよ。そういう人に会ったことないもの。っぽいっていうよりそれはゴリラ本人でしょ? 人間じゃない」


藤村 「みんなツーブロックだし」


吉川 「あ、それはゴリラっぽい人だ。ツーブロックのゴリラっぽい人ね。まぁ、確かに苦手な人はいるだろうね」


藤村 「結局世の中にはツーブロックの人間しかいないんだよ」


吉川 「ツーブロックの人間だけじゃないよ? 二種類の時はまぁまぁ飲み込めたけど。ツーブロック、ワンブロックって意味? ブロックを人間の性質みたいなものだと思ってる?」


藤村 「俺たちワンブロ人間はツーブロ人間の強引さの尻拭いをいっつもさせられてるんだから」


吉川 「ワンブロ人間って自覚なかったな。確かにツーブロックではないけど、ツーブロックでない人間全てがワンブロック人間だと認識してないもん」


藤村 「だいたい言ってることが毎回違うんだよ。結局都合のいいように解釈するだけなんだから。マジでダブルスタンダードなんだよな」


吉川 「そういう人にストレスを感じるのはわかるよ」


藤村 「俺たちシングルスタンダード人間のこともちょっとは考えろよ」


吉川 「それも二種類なの? ダブルスタンダードの人間は常にダブルスタンダードなんだ?」


藤村 「ダブルのスーツ着やがってよ」


吉川 「着てそう。押し出しが強いやつじゃないとダブルのスーツ似合わないからね」


藤村 「結局この世にはダブルの人間とシングルの人間しかいないんだよ」


吉川 「スーツの話になった? 外見のことを問題視してるの?」


藤村 「トイレットペーパーだって無駄遣いするなって話だよ」


吉川 「それに関しては俺はダブル人間だな。悪いけど。ダブルの肩を持たざるを得ない」


藤村 「俺も」


吉川 「アイデンティティぐらぐらしてるな。やっぱり二種類の人間に無理やり分けるのは間違ってるんじゃないか?」


藤村 「違う。それぞれ二分化することで人間の多様性を表してるんだ。俺はゴリラっぽくなく、ワンブロックで、シングルスタンダードで、シングルのスーツで、ダブルのトイレットペーパーだから。2⁵で32種類の人間に分別できる」


吉川 「なに、その分別法? それをしてなにか意味があるの?」


藤村 「より分類が近い方とマッチングするようにしたら相性がいいんじゃないか?」


吉川 「ゴリラっぽさの判定必要か? もっとあるだろ、好き嫌いとか」


藤村 「そうだな。でも結局この世には二種類の人間しかいないという人間と、二種類以上の人間がいるという人間しかいないんだよ」



暗転

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