落選

吉川 「え~、まずは皆さん応援ありがとうございました。今回は私の力及ばず落選という結果になりましたが、皆さんの温かいご支援には感謝しかございません。本当に私が至らないばかりに申し訳ありませんでした」


藤村 「あの、吉川さん。少しよろしいですか?」


吉川 「……はい」


藤村 「お集まりの方々、本日はちょうど吉川さんの誕生日ということで。ハッピー・バースデー・トゥー・ユー……」


吉川 「いや、ちょっと。藤村くん。申し訳ない。今そういう状況では」


藤村 「さぁ皆さんご一緒に。ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」


吉川 「藤村くん。いいから! 誰も歌ってない。君のソロパートになってる」


藤村 「ハッピ・バースデイ・ディア……?」


吉川 「ほら! みんな名前言おうかどうか伺う感じで戸惑ってるじゃないか。今やることじゃないだろ。気持ちはありがたいけど、誰ひとりそういうムードになってないんだよ」


藤村 「サッド・バースデイ・トゥ・ユー」


吉川 「サッド・バースデイってなんだよ。物悲しげに短調で歌うなよ。歌いきらなくていいんだよ」


藤村 「でもケーキも用意したので」


吉川 「用意したの? 気遣いは嬉しいけど」


藤村 「ただ当初の予定は当選アンド誕生日だったので、ケーキに『当選』って書いてあるところはグジャってしておきました」


吉川 「あぁ。グジャってなってるね。結構メインの部分が」


藤村 「みなさんも切り分けますのでどうぞ食べていってください」


吉川 「余計物悲しいんだよ。当選するはずだったケーキ。本来こういうのは落選した場合は表に出ないで処理するものなんだから。一部だけグジャってして出てくることないんだから」


藤村 「せっかくですんで」


吉川 「気持ちはありがたいけど」


藤村 「あと、申し訳ないんですが、控えめでいいんで万歳三唱だけしてもらっていいですか?」


吉川 「なんで? 落ちたのに。絶対にやりたくないよ。狂った人みたいになるじゃん」


藤村 「そこをなんとか!」


吉川 「なんとかしないよ。なんでこの状況で万歳なんだよ」


藤村 「あの……。それがフラッシュモブのきっかけになってるんで」


吉川 「やる気なの? フラッシュモブを!? この空気の中で?」


藤村 「当選要素は省いて誕生日要素だけにするんで」


吉川 「そういう問題じゃないよ。省かれる当選要素も悲しいし。もうなにもしないで欲しい。傷口に塩を塗らないで欲しい」


藤村 「でも皆さん、選挙そっちのけで練習したので」


吉川 「そっちのけてたの? 練習のため? そっちのけないで欲しかったな。フラッシュモブよりも選挙に集中して欲しかった」


藤村 「でもここでやめちゃうと、落ちて迷惑かけた上に皆さんの楽しみも奪うことになるので」


吉川 「ひどい言い草だな。別に私だって落ちようと思って落ちたわけじゃないんだよ!」


藤村 「せめてフラッシュモブだけは成功させて、晴れやかな気持ちで解散しましょうよ」


吉川 「ならないけどな、晴れやかに。むしろそれで晴れやかな気持ちで帰るやつ選挙のことどうでもよかっただろ」


藤村 「本来なら大きな票田を持ってる笹咲会長も来てくれるはずだったんですが」


吉川 「それだよ。どうしたの笹咲会長は? 真っ先に駆けつけてくれるはずだったのに」


藤村 「フラッシュモブの練習中に骨折しちゃって。選挙どころじゃなくなっちゃいまして」


吉川 「待てよ。笹咲会長も巻き込んでたの? というか選挙どころじゃなくならせるなよ! 父の代からお世話になってるのに」


藤村 「年甲斐もなくハッスルするもんだから」


吉川 「いやいや! 会長が骨折しなかったら当選してたんじゃないの?」


藤村 「間違いなくそうですね」


吉川 「お前! なんでそういう大事なことを!」


藤村 「でも誕生日も一年に一回なので」


吉川 「誕生日は毎年来るんだよ。選挙は今度四年後だよ!」


藤村 「わかりました。今度は四年間みっちり練習しておきます!」


吉川 「何もわかってないー!」



暗転

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