やんちゃ

藤村 「まぁ俺もさ、そうは見えないかもしれないけど、若い頃はやんちゃしてたんだよ」


吉川 「いや? 結構そう見えます」


藤村 「本当?」


吉川 「ごつめのタトゥ入ってるし、そうなんじゃないかなーとは思ってました」


藤村 「バレてたかぁ」


吉川 「今は落ち着いてるんですよね?」


藤村 「そりゃそうだよ。若かりし頃の過ちというかね。流石にもうこの年になると大量虐殺とかはできないなー」


吉川 「た、大量? え? 思ってたやつと全然違いました」


藤村 「あ、少量だと思ってた?」


吉川 「量も確かに驚きますけど、虐殺というレベルじゃないかと」


藤村 「まぁ、そうは見えないだろ?」


吉川 「見える見えないというか、大量虐殺する人の見た目のイメージがそもそもないです」


藤村 「本当にバカだったよ。今だから言えるけど」


吉川 「それは言っていいんですか? 今だからとか時効とかのレベルじゃない気がするんですけど」


藤村 「あー、違う違う。そういうのじゃないから。別にバレてるわけじゃないから」


吉川 「まだバレてないんだ。すげぇ怖い。雑談レベルで語られる重さじゃない」


藤村 「なに急に緊張してるんだよ? もっと楽にしろよ。昔のことなんだから」


吉川 「昔のことって切り替えられるデカさじゃないんですよ」


藤村 「でも年をとって思うんだよ。あの時の俺があったから今の俺があるんだなーって」


吉川 「その過去をポジティブにとらえてるの問題がありすぎませんか?」


藤村 「そんなこと言っても誰でもそうじゃない? ガキの頃万引きしたとかさ」


吉川 「同じ罪として列挙するにはスケールが違いすぎる」


藤村 「好きな子に意地悪しちゃったとか」


吉川 「そのライトさで語ります? 大量虐殺を?」


藤村 「もちろん今はそんなこと絶対にしないよ。体力的にも無理だし」


吉川 「体力の問題? 体力落ちてなければ挑戦してもいいという心積もり?」


藤村 「だからそんなに硬くなるなって。楽にしろって。別に捕って食いやしないよ」


吉川 「捕って食うが慣用表現に思えない。確かな質感を持って伝わってきます」


藤村 「あんまり人に言わないでよ? 恥ずかしいから」


吉川 「恥の概念で秘密なの? もっと秘密にしなきゃいけない理由があると思うんだけど」


藤村 「そんなのみんなに知られたら変なあだ名とかつけられちゃうよ」


吉川 「あだ名を付けてカジュアルに接する周りの人たちもどうかと思う。全員まとめて病院で診てもらった方がいい」


藤村 「あ、こういう話嫌いだった? 話題変えようか?」


吉川 「こういう話に対して好きとか嫌いとかで語れない倫理観の壁があるんですよ。変えられても困るというか。このあとご飯どこで食べるなんて話題に上手くシフトできる気がしない」


藤村 「なんかそんな風になるなら言わないほうがよかったな」


吉川 「はい。聞かない方が良かったです」


藤村 「しょーもないやんちゃエピソードとして笑ってくれると思ったんだけど」


吉川 「それで一緒になって笑ったらサイコパスですよ。やんちゃエピソードには『虐』も『殺』出てきちゃダメだから」


藤村 「逆にそっちはないの? 今だから語れるみたいなの」


吉川 「並び立つウェイトのエピソードがある人はニュースになってるでしょ」


藤村 「なんか勘違いしてる? やらなかった? アリの巣とか水攻めにしたり」


吉川 「あぁ、そういう!? 虫とか?」


藤村 「そうそう。俺にとっては虫ケラみたいな奴らだったから」


吉川 「言わないんだよなー。虫に対して虫ケラみたいな奴らって。虫じゃない生命体にしか使わない表現なんだよなぁ」


藤村 「もう話題変えよ。ほら、ビビんなよ。楽にしろよ」


吉川 「流石に無理です」


藤村 「楽にしてやろうか?」


吉川 「もう言葉通りに受け止められない!」



暗転

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