ポーカーフェイス

藤村 「取引では重要なのがポーカーフェイスです。これができなければスタート地点にすら立ったとはいえません」


吉川 「わかりました」


藤村 「どんな時も、嬉しいと思っても、しまったと思っても、表情を変化させない。逆にいえば取引相手の表情の変化をこちらは見逃さない。それが大事です」


吉川 「はい」


藤村 「大事MANブラザーズバンドです」


吉川 「は?」


藤村 「あー、今笑いそうになりましたね。面白いことを言ったので」


吉川 「いえ、笑いそうではなかったです。意味がわからなかったから」


藤村 「全然ダメですね。どんなに面白くてもポーカーフェイスを貫いてください」


吉川 「別に面白くはなかったんだけど」


藤村 「あー、ダメです。それはフルハウスの時の顔ですね」


吉川 「なんですか? フルハウス?」


藤村 「ポーカーのフルハウスです。フルハウスが揃った人はみんなその表情になる」


吉川 「そうなの? 読めるの? 表情で手が」


藤村 「完全に読めます。ジェシーおいたんを彷彿させる顔になってる」


吉川 「なに? さっきから。よくわからないんだけど」


藤村 「気にせずポーカーフェイスに努めてください。威厳を持って表情を崩さない」


吉川 「はい」


藤村 「あー、ダメだ。その顔はブタですね」


吉川 「ブタ? 手札が揃ってない時の? そんな顔になってる?」


藤村 「本当にブタみたいな顔。ブサイクな」


吉川 「おい! それはただの悪口だろ!」


藤村 「あー、怒りを表情に出さない! どんな罵倒が来ても平静をキープ!」


吉川 「わかりました」


藤村 「またブタの顔だ」


吉川 「……」


藤村 「本当にこ汚いブタだな」


吉川 「ちょっと!」


藤村 「ポーカーフェイス!」


吉川 「いや、ちょっと! いくらなんでもひどすぎないですか? あなたにそこまで言われる覚えはないんですけど」


藤村 「吉川さん。別に私はあなたが憎くて言ってるわけじゃないんです。どんな状況でもポーカーフェイスを保てなければ取引で失敗するのはあなたなんですよ?」


吉川 「わかりました。すみませんでした」


藤村 「では早くそのブタみたいな面を整えてください」


吉川 「まだ始めてないじゃん! このデフォルトの顔をブタみたいって言われたらそれはただの悪口ですよ。ポーカーフェイスができてないならともかく、普段遣いの私の顔がこれだから」


藤村 「失礼しました。その顔はロイヤル・ストレート・フラッシュです」


吉川 「そこまでは言いすぎだろ。そんな大した顔じゃないよ」


藤村 「ほら! 嬉しい時も表情に出さない! ポーカーフェイスを保つ!」


吉川 「あ、すみません。まさか飴も来るとは思わなかったので」


藤村 「相手はあなたを持ち上げて油断させようとすることだってあります。それでも美味しい餌に食いつかずにポーカーフェイスを保つ。それがいちばん大事なんです。あと負けないことと投げ出さないこと逃げ出さないことも」


吉川 「はい」


藤村 「……まったく表情を変えませんね。よろしいでしょう。ポーカーフェイスは十分にできてます」


吉川 「ありがとうございます」


藤村 「では次のレベルに進みましょう。ポーカーフェイスの次はブラックジャックフェイスです」


吉川 「え? なにそれ」


藤村 「まずは顔をツギハギにして……」



暗転。

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