テスト

吉川 「コップに水が入っています。どのくらい入っているでしょうか?」


藤村 「う~ん」


吉川 「直感でいいよ」


藤村 「……ヒントもらえる?」


吉川 「いや、ヒントとかないよ。なんて答えても良いんだから。心理テストなんで」


藤村 「でもあるでしょ、一番いい答え。誰もが素晴らしいと思うような答え」


吉川 「多少はあるだろうけど、しょせん心理テストだからそこまでじゃないかと」


藤村 「嫌なの! 正解を答えたい! 一番素晴らしい答えを答えて完璧人間になりたい」


吉川 「完璧を狙って答えたから完璧人間になれるわけじゃないでしょ。もうそこに作為が入っちゃってるんだから。心理テストはありのままだから面白いんじゃん」


藤村 「俺にとって一番面白いのは勝利なんだよ! 最高の人間になって世界中のやつらを見下すこと以上に面白いことなんてないよ!」


吉川 「思想が最悪だな。全然完璧な人間の志向には思えない」


藤村 「ネットで手軽にIQテストができるやつとかあるだろ?」


吉川 「よくあるね」


藤村 「あれなんか、何度もやって最高得点を目指す。世界一IQ高い人間になりたい」


吉川 「何度もやって手に入れた得点はIQじゃないでしょ」


藤村 「繰り返すごとにIQが高まっていくのが実感できる」


吉川 「高まってないと思うよ。むしろ低まってるよ、その行動自体が」


藤村 「最終的に天才になれば過程はどうでもいい」


吉川 「最終的になってるのは天才じゃないと思うんだよ。過程を経たから天才なのであって」


藤村 「凡人のお前ごときが天才の俺にとやかくいうなよ。IQ280だぞ!」


吉川 「そのIQを拠り所にして他人を論破しようとするの厳しいよ。切なくならない?」


藤村 「人間というのは経験を踏まえて学習するものだ。その努力を否定するのか?」


吉川 「言ってることは正しそうだけど、同じ問題を何度も学習したら誰だって解けるでしょ。それは学習ではなくてカンニングだと思うよ」


藤村 「カンニングだとして何が悪いの? 世の中結果が全てだろ?」


吉川 「すごい小者の悪役みたいなこと言いだしたな」


藤村 「お前ら凡人はバカ正直に一度テストしてIQ110程度で喜んでいればいいさ。俺のような王者の高みを羨ましがりながらな」


吉川 「まったく高みを感じない。低みしかない。そんな風にだけはなりたくない」


藤村 「コップの中の水だったな! そのコップには水なんて入ってない。あふれるほどのエリクサーで満たされてる!」


吉川 「……正解!」


藤村 「やったー! 完璧人間だ! 他にないの?」


吉川 「二度とやらない」


藤村 「なんで?」



暗転

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