と、言いますと?

吉川 「やはり愛だと思いますね」


藤村 「……と、言いますと?」


吉川 「えーとですね、つまり人間というのは個体の生物としては非常に脆弱でなんです。だから社会性を持って群れとして生きる、そういう戦略を選んだ生物です。それゆえに人間である限り他者との関係というのは切り離すことはできないのです」


藤村 「関係。……と、言いますと?」


吉川 「人と人とが触れ合うとそこに関係が生まれますね? ポジティブなものもネガティブなものもある。個の利を増やすために他者から搾取することもある。しかし俯瞰した視点で考えると、人間という生物としての生存を目的としなければならない。とは言え、この地球上に個体でならともかく人間を脅かす種族はいませんから、そういう視点は持ちづらいと思います」


藤村 「種族。……と、言いますと?」


吉川 「え? 種族? 種族は種族ですよ。そこは別に掘り下げるところじゃないと思いますけど。例えば人間よりももっと強い社会性を持つゴリラなんかが現れたら人間の考え方も変わるのではないかということです」


藤村 「ゴリラ。……と、言いますと?」


吉川 「わからない? ゴリラだよ。たとえ出だしただけで別にゴリラだろうとチンパンジーだろうとオランウータンだろうと何でもいいよ。異星人だろうとエルフだろうと、種族としての強度の話ですから」


藤村 「チンパンジー。……と、言いますと?」


吉川 「掘り下げるなよ。チンパンジーを! そこを掘っても何も出ないよ。ただの一例。別にチンパンジーじゃなきゃいけないことでもない。類人猿じゃなくてもいい」


藤村 「類人猿。……と、言いますと?」


吉川 「話聞いてる? 今までの話の流れで類人猿がこの話題のクリティカルな部分だなと感じた?」


藤村 「クリティカル。……と、言いますと?」


吉川 「それは言い方が悪かったな。分かりづらかったかもしれない。言ってみれば核だよ。核心の部分。でもわかるでしょ? なんとなく」


藤村 「なんとなく。……と、言いますと?」


吉川 「それを説明するの? 曖昧な概念そのものを? なんとなくを明確に説明しろと言ってるの? 話の本筋とは関係ないのに。なんなのこの対話は」


藤村 「概念。……と、言いますと?」


吉川 「辞書だと思ってる? 人のことを。それは自分で調べなさいよ。調べればわかることでしょ。なんでも人に聞けばいいってことじゃないよ」


藤村 「人。……と、言いますと?」


吉川 「人がわからない? そもそも人というものがわからないまま、この話題を振ったの? え? なに? あなた知識を入力されずに起動したロボット? 人は人でしょ。それがわからないならもう何も伝えることはできないよ。前提が食い違ってるもん」


藤村 「ロボット。……と、言いますと?」


吉川 「ロボットはいいの! それはわからないでもいい! 言ったけど! 言ったけど意味として言ってないから。ただ言葉としていっただけでそこに意味はない。聞かれても答えはない」


藤村 「答え。……と、言いますと?」


吉川 「なに? 明確な答えみたいのを期待してるの? ズバッと一言で言い切るような。この話題全部を総括するような。そんな都合のいい言葉は用意してないけれども、あえてだよ。あえて言うならば、やはり愛だと思いますね」



暗転

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