吉川 「ちくしょう! 俺にもっと力があれば!」


声  「力が欲しい?」


吉川 「なんだ、この声は?」


声  「力が欲しいか?」


吉川 「欲しい!」


声  「それならこちらをクリック!」


吉川 「あ、そういうのいらない。絶対怪しいやつじゃん」


声  「今なら力と一緒に5000ポイントプレゼント!」


吉川 「向こうから薦めて来るタイプの力、絶対にいらない」


声  「初回一ヶ月は無料です。一ヶ月以内に解約すれば料金は一切かかりません」


吉川 「サービスが手厚すぎるのよ。そんな行き届いた力は絶対にいい結果にならない」


声  「なお当社は力配布実績10000件を突破しました!」


吉川 「気安く配ってるなぁ、力を。もうちょっともったいぶって欲しいというか。もう少し高嶺の花であって欲しい」


声  「古くはピラミッドを建てる時から使われてきた、この力。かのヒトラーを倒したのも、力でした。現代にこそこういったものが求められています」


吉川 「そりゃ使うよ。あらゆる時代で。そもそも力って呼び方が曖昧過ぎる。何の力なんだ。それが怪しいから何も訴えてこない」


声  「利用者の御子柴ヌメさん(81)の声です。『ずっと膝が痛くて痛くてトイレに行くのも億劫だったんですが、力を頂いてからは動くのが楽しくて。先日も散歩の途中でイキった若者を見たんですが左手のみで15秒でした』とのことです」


吉川 「おばあちゃんに何をあげてるんだよ! 力が良くない方向に影響を及ぼしてるよ」


声  「続いて利用者の深沢基文さん(76)の声です。『まだまだ若い者には負けてられないね。文句があるならかかってこい。お前らにいい思いなどさせてたまるか!』とのことです」


吉川 「最悪の老害じゃん。そんなやつに力をやるなよ。だいたいなんで利用者がみんな老人なんだよ。TVの通販コーナーじゃないか」


声  「只今から限定1時間。オペレーターを増やして対応しております。数に限りがありますのでお急ぎを!」


吉川 「限定で煽るんじゃないよ。力ってそうやって手に入れるものじゃないだろ」


声  「1つでは足りない。そういった声も届いております。今なら4個セットもご用意しております。ご家族や親戚に配ると大変喜ばれますね」


吉川 「力をばら撒くな。周囲に力を撒いて固める権力政治になってる」


声  「さて、そろそろ締め切りの時間となって参りました。皆さん、力は手に入れましたでしょうか? まだの方はこれが本当に最後のチャンスです。力なきものとして生きるかどうか、どうかご判断ください!」


吉川 「あ、あ。すみません。じゃあ力を一つ!」


声  「申し訳ありません。力の方は先ほど締め切ってしまいました」


吉川 「えー。怪しいけど、そう言われるとすごい損した気になる。クソォ!」


声  「さてお次の商品はこちら。技です!」


吉川 「あ、やっぱいらないやつだ」



暗転

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