ヒッチハイク

藤村 「あー、よかった! やっと止まってもらえた」


吉川 「ヒッチハイク?」


藤村 「はい! 大丈夫ですか?」


吉川 「大丈夫は大丈夫だけど、どこまで?」


藤村 「もうどこでもいいです」


吉川 「そう言われても、方向とかあるでしょ」


藤村 「じゃあできればアメリカに……」


吉川 「それはできねーな。そればっかりはできない。海だから。ざっくりアメリカの方っていうのもよくわからないし」


藤村 「じゃあどこでも大丈夫です」


吉川 「そんなことある? アメリカ・オア・ナッシングって指示で動ける人いないよ」


藤村 「だったらロシアに」


吉川 「真逆? 方向もそうだしイデオロギーも真逆で。それどっちかがダメだったから代替えでいけるものなの? そもそもこの大変な時期に何しに行く気なの?」


藤村 「世界中の人を笑顔にするために」


吉川 「漠然! そりゃ方向もぼんやりしてるわな。若い頃はそんなものかもしれないけど」


藤村 「ちなみにどちらに行かれる予定だったんですか?」


吉川 「町田」


藤村 「あー、いいですね! 神奈川っていいところですもんね!」


吉川 「あ、いや。あの、神奈川じゃないけどな」


藤村 「そんなことないですよ。神奈川っていいですよ」


吉川 「違うんだよ。町田は東京都だから」


藤村 「え? 東京ってあの最悪の地こと東京都?」


吉川 「東京でなんかあった? そんな印象抱く人あんまりいないと思うけど」


藤村 「神奈川だったら良かったんですけどね。あれですよね? 町田って東京と神奈川の次元の狭間にある、なんか架空の土地みたいな」


吉川 「架空じゃないよ。あるよ! 実在してる東京の街だよ」


藤村 「あ、そうなんですか。だったら町田に入る手前で下ろしてもらえれば」


吉川 「町田には入らないんだ? 手前って言ったって別になにもないよ?」


藤村 「そうですね。でも町田には笑顔必要ないかなって」


吉川 「なんでだよ! 世界中の人を笑顔にするんだろうが」


藤村 「そうなんですけど、町田は別にいいかなって」


吉川 「根拠はなんだよ! 町田に笑顔がトゥー・マッチな理由はなんだ?」


藤村 「いります? 町田に?」


吉川 「お前、町田のことそんなに知らないくせになんでそこまで笑顔を節約しようとしてるんだよ。町田だって笑顔があるに越したことはないだろ!」


藤村 「だったら笑顔と麻薬だったらどっちが欲しいですか?」


吉川 「そういう町じゃねーよ別に! そりゃまぁまったく犯罪がないとは言わないけどスラム街じゃないからな」


藤村 「そうなんですか。すみません、デトロイトと勘違いしてました」


吉川 「どうやって!? 町田とデトロイトの共通点は逆にどこ? 勘違いできる下地が一枚もないよ」


藤村 「じゃ町田までお願いします」


吉川 「いいのね? 町田で」


藤村 「はい! 我慢します」


吉川 「我慢とかで来るなよ! そんな気持ちで来て欲しくないよ。町田に喜んでくる人間だっているんだよ」


藤村 「え? 町田に!?」


吉川 「素で驚くなよ。いるよ! 割と最近キレイになってるし」


藤村 「そうなんですか。なんか楽しみになってきました。笑顔にできるかな」


吉川 「言動は気をつけてね。今までのノリで行くとどうやっても町田の人は笑顔にならないから」


藤村 「大丈夫ですかね? 町田の人に笑顔って概念が理解できますかね?」


吉川 「戦後まもなくじゃないぞ? すべてを失った悲しき民みたいに言うなよ」


藤村 「笑顔はさせた人もした人もそれを見ている周りの人もハッピーになる三方良し、ですから」


吉川 「やや胡散臭い情報商材屋みたいなこと言い出したな」


藤村 「笑顔の力で三方神奈川にします!」


吉川 「もうなってんだよ」



暗転

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