ミッション

教官 「初めに言っておく。今のお前らじゃこのミッションの生還率は10%だ」


吉川 「なんですって?」


教官 「しかしこの訓練によって少しでも生還率を上げてもらう」


吉川 「どうしてこんな危険なミッションを?」


教官 「やらねばならぬのだ。誰かが」


吉川 「わかりました!」


教官 「お? やる気が出たな? 今ので生還率が10%上がった」


吉川 「え? そういうシステムなの?」


教官 「質問はなしだ。今度そういう煩わしい質問をしたら生還率がちょっとずつ下がるぞ!」


吉川 「そんなクイズゲーム感覚で……」


教官 「まずお前たちにはあらゆる通信機器を提出してもらう。そして許可がない限りこの基地から出ることはできない。家族や友人たちには最後の別れをしておけ」


吉川 「なぜですか!? 横暴ですよ」


教官 「なぜか? そんなこともわからないのか?」


吉川 「極秘ミッションだらかですか?」


教官 「フッ……。甘いな。そりゃ、子供の考え方だ。国の威信を背負う俺たち大人は違う」


吉川 「ではなぜ?」


教官 「炎上しちゃうからだ」


吉川 「え?」


教官 「最近はパワハラとかモラハラとかすごい炎上するから。もう一発だから。ネットの奴らはネチネチとずーっと文句ばっかり言いやがって」


吉川 「だったらパワハラやモラハラをしなきゃいいだけなんじゃ……」


教官 「あー、今ので生還率下がった! グッと下がっちゃった!」


吉川 「どういう理屈で下がってるんですか。まだなにもしてないのに」


教官 「まず俺のやる気が下がったから。このままだとミッションも適当に教えるかもしれない。索敵もちゃんとするの面倒になってきた」


吉川 「気分! 全部教官の気分!?」


教官 「な? こういうのが炎上するんだよ。だから外部と連絡取っちゃダメ。結構傷つきやすいから」


吉川 「わかってるなら改善すればいいのに」


教官 「諸君らも少しでも生還率を上げるために善処するように。ちなみに先日田舎から送られてきた桃をいっぱい差し入れてくれた藤村くんは生還率が20%上がってる」


吉川 「賄賂じゃん。一人だけ生還率が上がるってことありうるの?」


教官 「生還率が100%になったら、ミッションクリア扱いで内勤に変更される」


吉川 「それはもう罰ゲームなんじゃないの? 無理やりやらされてるんじゃん」


教官 「俺は甘いものも好きだ。覚えておくといい」


吉川 「なんかもらう気マンマンじゃん。セコいなぁ」


教官 「あれ? 吉川、お前のそれG-SHOCK。レアなやつじゃない?」


吉川 「あぁ、はい。コラボの」


教官 「だよね! メチャメチャレアなやつだよ。すごい欲しかったんだけど転売ヤーに買われてさ、今すごいプレ値になってんだよな。へぇ~」


吉川 「な、なんすか?」


教官 「……70%だな」


吉川 「なに言ってるんですか」


教官 「そのG-SHOCKは70%換算でいける」


吉川 「いけるってなんですか。嫌ですよ。あげませんよ?」


教官 「あ、そう。今下がってる。下がりつつある。徐々に下がってるよ。17……16……15……」


吉川 「カウントダウンみたいに生還率下げないでくださいよ。それはないでしょ」


教官 「75%でどうだ?」


吉川 「どんな取引しようとしてるんですか。最悪の教官じゃないですか」


教官 「俺は新兵たちからどれだけ罵られようと、最悪の教官だと呼ばれようと、お前たちの生還率を上げるためなら何でもする」


吉川 「急に映画みたいな決め台詞吐かないでくださいよ。言葉は格好いいけど、今の流れで言うの最低ですよ。本当にただの最悪の教官だから」


教官 「なんとでも言え」


吉川 「憎まれ役を演じてる風に言ってるけど、憎まれてもしょうがない人になってますよ」


教官 「ええい! 80%だ。こんな話、もう二度とないぞ」


吉川 「完全に賄賂を要求する小役人なんだよなぁ。もういいですよ。わかりましたよ。しつこいし。死んじゃったら意味ないし」


教官 「諸君、わかったか。このように厳しい訓練を乗り越えたものだけが生還できる過酷なミッションだ。なお、このミッションを乗り越えても、私の上官や他の教官によるさらなるミッションが待っている。他の教官は俺みたいに優しくはないぞ」


吉川 「地獄のような場所に来ちまったぜ……」



暗転

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